EALAI:東京大学/東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ | EALAI・「東アジア海域交流」テーマ講義 | 海の東アジア ― 海域交流から見た日本

月曜2限(10:40-12:10) 教室:13号館1321
担当教員:齋藤 希史・小島 毅
東京大学 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ

講義内容紹介

海の東アジア ― 海域交流から見た日本

東アジアは海でつながっていた!
遣唐使の遠きいにしえも、近代の不幸な戦争も、日本人は東アジアのなかで生きていました。

そして、それらの中間の時期、中世・近世の1000年間には何があったのか?
みなさん、ご存じですか?

ふだんあまり語られぬ時期にあえて光を当てることで、
いま、そしてこれからの東アジアの交流を展望します。

【講師】
小島 毅(東京大学人文社会系研究科):儀礼
榎本 渉(東京大学人文社会研究科):商人
齋藤 希史(東京大学総合文化研究科):文学
渡辺 純成(東京学芸大学教育学部):数学
林 士民(寧波市文物考古研究所):陶磁
方 祖猷(寧波大学):思想
銭 明(浙江省社会科学院):思想
安達 裕之(東京大学総合文化研究科):造船
板倉 聖哲(東京大学東洋文化研究所):絵画
保立 道久(東京大学史料編纂所):王権


2006.10.16(月)第1回:小島 毅 (こじま つよし) KOJIMA Tsuyoshi ガイダンス
授業開始にあたって全体の趣旨と流れを説明し、講義のテーマについて論じる。

小島 毅
東京大学人文社会研究科助教授。研究テーマは、東アジアにおいて儒教が果たした政治的・社会的役割、特に朱子学(近世儒教)のなかで礼教がどのように展開したかについて。また、儒教にもとづく王権理論の構造分析を進めている。

2006.10.23(月)第2回:小島 毅「海域交流をみる視点」
「海域交流」という考え方について説明し、あわせてこのテーマ講義の企画主体となっている共同研究プロジェクトの内容を紹介する。

小島 毅
東京大学人文社会研究科助教授。

関連著作:
『義経の東アジア』(勉誠出版、2005年)
(編集)『義経から一豊へ 大河ドラマを海域にひらく』(勉誠出版、2006年)

2006.10.30(月)第3回:小島 毅「儒教は日本に伝わったのか」
東アジアを「儒教文化圏」とみなす考え方がある。しかし、ひとくちに儒教といってもその存在様態はさまざまである。特に日本の場合には、儒教の根幹をなしている「礼」が本格的には浸透していなかった。この点から日本の位相の史的特殊性を論じてみる。

小島 毅
東京大学人文社会研究科助教授

関連著作:
「天道・革命・隠逸──朱子学的王権をめぐって」(安丸良夫編『岩波講座・天皇と王権を考える・4・宗教と権威』、2002年)
『東アジアの儒教と礼』(山川出版社、2004年)
『近代日本の陽明学』(講談社、2006年)

2006.11.06(月)第4回:榎本 渉 (えのもと わたる) ENOMOTO Wataru 「日本僧の中国留学」
遣唐使断絶の後も、宋元代を通じ、名前の判明するだけで数百例に及ぶ僧侶が、民間貿易船を利用して日中間を往来した。本講義では、彼らの留学を物語る古文書を紹介し、その意味を考えてみる。

榎本 渉
東京大学人文社会研究科研究員。9〜14世紀における東シナ海の交流、特に日宋・日元間の貿易・文化交流に関して研究を進めている。

関連著作:
「宋代の「日本商人」の再検討」(『史学雑誌』110-2、2001年)
「元末内乱期の日元交通」(『東洋学報』84-1、2002年)
「中国史料に見える中世日本の度牒」(『禅学研究』82、2004年)

2006.11.13(月)第5回:齋藤 希史 (さいとう まれし) SAITO Mareshi 「詩の伝播 ~東アジアの共通感覚~」
言語も風土も異にする場所で生まれた中国の詩が、日本に伝播して読み書きされた時、何が起こったのか。日本人が、中国からの渡航者のみならず、朝鮮通信使とも詩の交換を熱心に行ったのは、なぜなのか。詩のもたらす共通感覚の醸成という観点から考える。

齋藤 希史
東京大学総合文化研究科助教授。中国古典文学(六朝から唐宋)および近代東アジアの言語・文学・出版。

関連著作:
『漢文脈の近代』(名古屋大学出版会、2005年)
(編著)『日本を意識する 東大駒場連続講義』講談社選書メチエ、2005年)

2006.11.20(月)第6回:渡辺 純成 (わたなべ じゅんせい) WATANABE Junsei  「近代化の礎 ~明末清初における東アジア諸民族の西欧科学受容について~」
東アジアに初めて西欧の数学・天文学が紹介された明末清初の状況と、それが現代に繋がってゆく様子とを、満洲語文献に基づく知見を交え、俗説を訂正しながら論じる。余裕があれば、東アジアの数学の社会的背景を概観しつつ、東アジア数学史の巨大な空白にも触れたい。

渡辺 純成
東京学芸大学教育学部助手。満洲語は清朝の第一公用語であった。多くの文献が残され、主に政治史や言語学の角度から研究されているが、科学技術文献についてはほとんど研究が進められていない。しかしそれらは、清初のイエズス会士が東アジアに西洋科学を紹介した経緯を調べる上で必須であり、そのため、満洲語自然科学文献の内容を組織的に調べている。

関連著作:
「満洲語のユークリッド──東洋文庫所蔵の満文『算法原本』──」(『満族史研究』vol.3, pp.40-90)
「満洲語医学書『格体全録』について」(『満族史研究』, vol.4, pp.22-113)
「満洲語自然科学術語について」(『アルタイ語研究』, vol.1, pp.69-108)
A Manchu manuscript on arithmetic owned by Toyo Bunko, "euwan fa yuwan benbithe" (SCIAMVS, vol.6, 177-264)

2006.11.27(月)第7回:林 士民 (LIN Shimin) 「宋代明州と日本平泉の友好往来」【特別講演会】
唐代以来、明州(現在の寧波)は中国を代表する貿易港として発展し、漢文化伝播の発信地として重要な役割を果たした。「海上シルクロード」の始発港の一つとしての明州の役割を知る上で、平泉から出土している陶磁器・銅銭といった出土物は貴重な史料である。こうした文物についての歴史考古学的な分析を通じて、経済・文化交流の具体像を描き出すこととする。

林 士民
寧波市文物考古研究所教授。専門は歴史考古学。寧波史に関しても、陶磁器をはじめとする考古学の側面から研究を進めている。寧波史に関連する著作、『三江変遷−寧波城市発展史話』(寧波出版社、2002年)、『万里絲路−寧波与海上絲綢之路』(沈建国氏と共著、寧波出版社、2002年)がある。

2006.12.04(月)第8回:方 祖猷(FANG Zuyou)「宋代の寧波地方志に見える中日経済交流の記載」/銭明(QIAN Ming)「王陽明と中日韓3国の民族性」
方 祖猷「宋代の寧波地方志に見える中日経済交流の記載」

南宋孝宗時代に作られた寧波最初の地方志の中に、中日経済、文化交流にかんする貴重な資料が残されている。日本との唯一の貿易港としての関税記録や商品名、日本僧恵諤、栄西の活躍、呉越王が日本で仏教文献を収集するなどが史料的に確認できる。

銭 明「王陽明と中日韓3国の民族性」

陽明心学は日本、韓国にも伝わり、石田梅岩心学、霞谷心学といった流派が形成されてきた。文化の受容によって共通的な東アジア意識が生まれてきたと同時に、学派の思想の相違性から異なる文化形態の特徴も現れてきた。

方 祖猷
寧波大学元教授。中国を代表する陽明学・清代浙東学派の研究者として、国際的にも著名。主な著書に『万斯同年譜』(陳訓慈との共著。中文大学出版社、1991年)・『清初浙東学派論叢』(万巻楼、1996年)・『万斯同評伝』(南京大学出版社、1996年)・『王畿評伝』(南京大学出版社、2001年)がある。

銭 明
浙江省社会科学院研究員。専門は陽明学を中心とする、明清および 日本近世の思想文化。著書に『陽明学的形成与発展』(江蘇古籍出版社、2002年)がある。また、岡田武彦『王陽明与明末儒学』(呉光らとの共訳。上海古籍出版社、2000年)などの翻訳を通じて、日本における明代思想研究を中国に紹介している。

2006.12.11(月)第9回:安達 裕之(あだち ひろゆき) ADACHI Hiroyuki 「列島・半島・大陸の船」
木造船の世界では地域が違えば船が異なるのが常といってよい。本講では、大陸、半島、列島の南北がどのような大型船を発達させたかを論じる。

安達 裕之
東京大学総合文化研究科教授。日本造船史

関連著作:
『異様の船−洋式船導入と鎖国体制−』(単著、平凡社、1995年)
 『日本の船』和船編(単著、船の科学館、1998年)
「日本の船の発達史への一考察」(『海事史研究』第54号、1997年)
「白と黒−船の場合−」(同上、第55号、1998年)
「大渡考−弁才船の帆装と操帆法−」(同上、第59号、2002年)

2006.12.18(月)第10回:安達 裕之「日本におけるジャンクの導入」
日本には過去にジャンクが四度導入されたことがある。遣唐使船と朱印船、江戸時代の寛文の唐船と天明の三国丸がそれである。本講ではこれらの船について論じるとともに、明治時代のジャンク式の伸子帆の流行についても取りあげる。

安達 裕之
東京大学総合文化研究科教授。日本造船史

2007.01.15(月)第11回:板倉 聖哲(いたくら まさあき) ITAKURA Masaaki 「雪舟・若冲と東アジア」
最近開催された日本美術の展覧会でも、雪舟、若冲は話題であった。ただその語り口は日本を代表する画家としてであり、日本のコンテクストのみが強調される感がある。本講義では、彼らの代表作を東アジア的な視野から見直し、二人の画家の創造に迫りたい。

板倉 聖哲
東京大学東洋文化研究所助教授。東アジア、特に中国絵画史。東アジア文化圏においてイメージがどのように共有され,差異化されたかを比較し、イメージの生成・伝播・受容の過程を追究。個別の作品論としては南宋時代・明時代の画院画家たちの作品を継続して研究。

関連著作:
『故宮博物院4 明時代の絵画』(日本放送出版協会、1998年9月)
『講座 日本美術史 第2巻 形態の伝承』(東京大学出版会 2005年)
『明代絵画と雪舟』展図録(監修:根津美術館 2005年)など。

2007.01.22(月)第12回:保立 道久(ほたて みちひさ) HOTATE Michihisa 菅原道真と東アジア
菅原道真が、その並はずれた能力によって王権の内紛の中に踏み込んでいった様子を描き出し、いわゆる遣唐使の「廃止」の問題についての常識が「創られた伝統」にすぎないことを示したい。

保立 道久
東京大学史料編纂所教授。研究テーマは日本中世史のさまざまな分野にわたるが、最大の興味の所在は歴史理論。ユーラシアの西から東の全体を時代区分すること、社会構造論を、その変化に注目しながら考える方法などという問題が、歴史理論にとって本質的な問題となると考えている。

著作:
『中世の愛と従属ーー絵巻の中の肉体』(平凡社、1986年)
『平安王朝』(岩波新書、1996年)
『物語の中世』(東京大学出版会、1998年)
『中世の女の一生』(洋泉社、1999年)
『平安時代』(岩波ジュニア新書、1999年)
『歴史学をみつめ直すーー封建制概念の放棄』(校倉書房、2004年)
『義経の登場』(日本放送出版協会、2004年)

関連著作:
『黄金国家ー東アジアと平安日本』(青木書店、2004年)

2007.01.29(月)第13回:小島 毅 まとめ
各回講義の内容をあらためてまとめなおしたうえで、東アジアの海域交流が日本にどのような影響を与えてきたのか、現在の研究状況をふまえて述べる。

小島 毅
東京大学人文社会研究科助教授