2006年度冬学期 EALAIテーマ講義 東アジアの公論形成 II

火曜5限(16:20-17:50) 教室:12号館1213
担当教員:三谷 博
東京大学 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ

アンケート紹介

2007.01.16(火)「インターネットとメディア・ポリティクス」玄 武岩

韓国と日本のネット文化が対比されながら、現在のネット文化の問題点が提起され、興味深かったです。特に、ネット上の世論の信頼性については、ごく一部の人間が圧倒的多数の投稿を行うことで世論を操作しうるということは危険なことであり、注意しなければいけないと思いました。(文Ⅰ/1年)


インターネット新聞に関する話は非常に興味深かった。既存の新聞メディアであれ、テレビメディアであれ、ニュースの速報性という点では劣っている。新聞は原稿の締め切りのために読者が得られるニュースはリアルタイムとは言い難い。テレビメディアは報道側が速報性に柔軟に対応しているが、視聴者が常にテレビを見ているわけではなく、ニュースを知るまでの空白が生まれている。この空白性を埋めるものとしてインターネットというのは優れたメディアであろう。しかしそれではネットが既存メディアの補佐役にしかすぎなくなる。これが「新聞」という地位に登るにはどんな障壁があるだろうか。1つはニュースに対する見方がどんなものかと言うことだ。既存の新聞メディアは社論と言う1つの軸をもって報道している。之はニュースを理解する際に重要な指標であり、安心につながっていると思う。しかし市民参加型には軸が無いのではと言うことだ。2つ目は市民と専門記者では情報取得スピードの差異が大きいことだ。この2つの問題が解消されなければ、ネット新聞はあまり有益ではないと思った。(文Ⅱ/1年)


韓国はだいぶ民主化したものと思っていたが、まだまだ民主化以前の名残が残っているのは残念な発見だった。それを正当化しようとせずに、現状を許してしまったまま、インターネット上に言論の場を移すのは、逃げているようであり、また、インターネット上の信用性の問題を軽視しすぎのように思える。日本の新聞のように、ネット上の記事を制限する方が、新聞業界の正常化に良いのではないか。韓国というと、日本を越える激しい受験競争と同時に、ネット喫茶でネットゲームにはまりこむ子供の姿をニュースで見たのが印象的で、日本よりも社会が病んでいるように感じる。ネット上の過度の個人情報の露出や、匿名であることが余り気にされていないのは、おかしいことに感じる。他者との交流は、現実空間のみ、もしくは現実空間メインであることが望ましい。(文Ⅲ/1年)


ネットが議論の場として成熟するためには、今の匿名性から実名製への転換が必要なのかもしれない、ということは金平さんもおっしゃっていた。私もその通りだと思う。(1年/文Ⅱ)

講義概要「韓国のインターネット言論と市民社会-日韓インターネット文化の比較から」
○あらすじ
韓国では世論の形成においてインターネットが大きな影響力を及ぼしている。インターネットに基づく世論が大統領を生んだ例も挙げられる。それに対して、日本では政治にインターネットが影響を及ぼすことがほとんどない。このような日韓におけるインターネットが果たす役割に違いが生まれるのはなぜなのか。この問題を、韓国におけるインターネットの意味を探ることで考えてみたいと思う。
○なぜ、韓国では日常生活でインターネットが使われるのか
韓国人には既存メディアに対する不信感が根底にある。そもそも一昔前の韓国では軍事独裁政治が行われており、言論の自由も統制されていた。一般の市民が直接選挙で大統領を選べるようになったのも1987年になってようなくなされたことである。そのため、軍事独裁に対する、言論の自由をめぐる闘争が市民の間で繰り広げられてきた。そのような民主化運動の中で、軍事政権との癒着を通して発展し、中立な言論を行ってこなかった朝鮮日報・中央日報・東亜日報(韓国では「朝中東」と言われている)は「言論権力」と呼ばれ、人々から批判の対象となった。
○OhmyNews(オーマイニュース)の登場
韓国で朝中東のような巨大既存メディアに対する批判の高まりは、1990年以降も言論民主化運動の中で展開された。その中で登場した代表的なメディアが「OhmyNews」である。「OhmyNews」とは、2000年に立ち上げられたインターネット新聞である。「OhmyNews」は、副題に「全ての市民が記者だ」とあるように、参加型ジャーナリズムの一つの典型であり、各記事について自分の意見が書き込め、市民の政治参加が促進される。現在、インターネット新聞は既存のメディアに対抗できるくらいの影響力と信頼性を持っている。
○なぜ、日本ではインターネットが政治に用いられないのか
韓国ではインターネット新聞が既存のメディアと同じくらいの信頼性と影響力を持っていると述べたが、日本ではインターネット上の情報にあまり信頼を寄ないのが一般的である。韓国で「新聞」と言えば、インターネット新聞とポータルサイト上のニュース、紙新聞を主に指す。前者二つのインターネット上のニュースが、既存メディアの新聞のニュースと同等の信頼性と影響力をもつ理由は、インターネット上に、テレビや新聞などの既存メディアがもつ記事が全て載せられているからである。更に、インターネット上の情報には、ニュースに対するいろんな人の意見が書き込まれており、人々の政治意識を喚起し、世論に与える影響が大きいのである。
一方、日本のメディアの場合、各新聞のインターネット版やポータルサイトに載せられているニュースは主要な記事のみに限られているという状況がある。また。日本の場合、インターネット空間=匿名の空間であり、リアル社会の自分とは異なるバーチャルな空間として捉えられているため、信頼を寄せられないという状況もある。