【授業の目標・概要】
自然災害には様々な種類があるが、アジアは特に災害の種類や頻度が多く、人間社会に大きな負の影響を与え続けている。アジアは人口密度が高くまた経済も急速な発展を遂げつつあるという人類全体にとっても極めて特異な地域でもある。したがって日本を含めアジアに住む人間や社会にとって、自然災害にどのように立ち向かっていくのか、そしてこれらの災害にどのように“付き合っていくのか”が極めて重要な人類全体の課題となっている。日本はアジアの中でも自然災害の経験が豊富なばかりでなく、学術研究や防災技術のレベルも高いためアジア諸国からは学術研究や防災技術の導入に熱い視線を向けられている。
本講義では概論に始まり、個々の災害についてその発生メカニズムや事例を概説すると共に、災害の諸相や災害からの復興にまつわる諸問題あるいは防災技術など人間社会との関わりについて関係する教員によるオムニバス形式の講義を行う。関係教員は文科系・理科系を含む多彩な分野から参加しており文理融合型の講義になる。一連の講義を通じてアジアにおける自然災害についての理解を深めると共に、災害復興や防災に関する問題点を考え、災害に強い社会を作るためにはどうすればよいか、また、災害復興や防災に我々が貢献できることは何か、などについて共に考えたい。
*授業のキーワード:アジア/自然災害/防災/復興/安心・安全な社会
【授業計画】
以下の項目について担当教員が1、2回ずつの講義を行う。また、毎回講義の最後に議論の時間を設けて討論を行う。
1.概論:アジアの自然災害の特徴
”自然災害”とは何か、その定義づけを行い、統計的な資料に基づき、アジアの自然災害の特徴について述べる。
2.地震の発生メカニズムと災害
地震とは何か、その発生メカニズムについて概説する。またアジアで発生する地震をいくつかとりあげ、その特徴、災害の様相等について概説する。
3.津波の発生メカニズムと災害
津波とは何か。何故発生するのか、そのメカニズムについて概説する。また、アジアで最近発生したいくつかの津波をとりあげ、その特徴、災害の様相等について概説する。
4.火山噴火の発生メカニズムと災害
火山噴火とは何か。火山の成り立ちを踏まえ、噴火のメカニズムについて概説する。また、アジアで最近発生したいくつかの事例をとりあげ、その特徴、災害の様相等について概説する。
5.洪水の発生メカニズムと災害
アジアでは洪水が頻発する。何故発生するのかそのメカニズムを概説すると共に社会的・文化的背景などについて考察する。
6.気候変動と災害
地球温暖化に伴う気候変動により台風や洪水などが多発する可能性が指摘されている。このような気候変動のメカニズムや特にアジアにおけるインパクトについて概説する。
7.防災技術(特に耐震技術について)
「地震が人を殺すのではなく、建物が人を殺す」とはよく言われるところである。地震の災害軽減のためには建築物の耐震化がかかせない。耐震基準とは何か、どこに問題があるのか、等について考察する。
8.災害と情報
災害の低減には情報の共有が極めて重要である。しかし、特に災害が発生してからは情報の伝達が困難になる。何故なのか、どのような方策が考えられるのか、等について述べる。
9.関係するその他の課題と問題点
自然災害の軽減と復興のためには様々な分野を含む総合的理解と行動が必要である。地震や津波などの低頻度型災害に対しては子孫への経験の伝達と言う特殊な問題も存在する。これらの問題を整理し、アジアにおける自然災害軽減のために我々がどうすればよいのか、何ができるのか、について討論する。
【授業の方法】
オムニバス形式の講義.なお講義の最後(毎回の最後か最終回にまとめて行うかは未定)に自由討論を実施する予定である.
加藤照之 KATO Teruyuki
1952年神奈川県出身。東京大学地震研究所に勤務。地殻変動の研究を行っている。特に宇宙技術であるGPSを用いた観測によってプレートの運動や地震に伴う地殻変動を明らかにしてきた。2004年12月に発生したスマトラ島沖の地震・津波を契機としてアジアの地震・津波防災について諸外国の研究者とともに考えている。
”自然災害”とは何か、また人間社会とのかかわりについて、基本的な考え方を提示する。また、アジアにおける自然災害の特徴(その多様性と世界における割合など)を統計資料などを用いつつ概観する。最後に講義全体の構成等についてガイダンスを行う。
佃為成 TSUKUDA Tameshige
京都大学防災研究所と地震研究所で地震観測所勤務の経験をもち、地震観測と活断層の調査などを主な仕事にしてきた。トルコやイランの観測にも出かけた。最近は、地震予知の仕組みと前兆現象の解明の研究に打ち込んでいる。
地震はなぜ起こるか、そしてどのように起こっているかを理解した上で、地震防災の基本とは何かを考えます。
参考文献:
佃 為成『地震予知の最新科学:発生のメカニズムと予知研究の最前線』サイエンス・アイ新書、2007年
壁谷澤寿成 KABEYASAWA Toshimi
壁谷澤研究室では、地震災害、とくに構造物の被害の防止、軽減を目的として、構造物や地盤の耐震設計、補修、補強技術などに応用するために、1)設計用地震動、2)地震時挙動、3)耐震性能評価、4)被災度判定、5)被害想定、などに関する理論的あるいは実用的研究を行っている。具体的には、1)地震被害調査、2)強震記録の収集、3)実構造物の計測、4)動的破壊実験、5)静的破壊実験、6)数理解析、などを実施している。
兵庫県三木市に建設された「実大三次元震動破壊実験施設(E-defense)」による実物大の振動実験結果を紹介しつつ、建物の耐震性能について解説する。また、最近実施した既存のやや脆弱な建物と補強した建物の挙動の実験とその解析結果も紹介する。
西芳実 NISHI Yoshimi
東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム・助教。専門は東南アジア地域研究/アチェ近現代史。
主な著作に「アチェ紛争の起源と展開:被災を契機とした紛争の非軍事化」(『ODYSSEUS』No.11)、「インド洋津波はアチェに何をもたらすのか:「囲い込み」を解くためのさまざまな繋がり方」(『自然と文化そしてことば』No.4)がある。
2004年スマトラ沖地震津波を主な事例として、自然災害に対する外部世界からの救援復興活動が地域社会のあり方に与える影響や、紛争や災害への対応過程にあらわれる地域社会の特質について考えます。そこから、被災が社会に「損失」を与えるばかりとはかぎらず、それまで社会が抱えていた問題を解決するための契機となる可能性を検討します。
関連ウェブサイト:
2004年スマトラ沖地震・津波関連情報 http://homepage2.nifty.com/jams/aceh.html
中田節也 NAKADA Setsuya
東京大学地震研究所教授。専門は火山地質学。噴出物の地質調査や室内 化学分析結果と、地球物理学的観測の結果とを統合して噴火の仕組みの 解明や将来の予測研究を行っている。これまで、雲仙普賢岳や三宅島な どの噴火を対象にした研究を行った。
火山噴火は頻度こそ少ないが、ひとたび起こると地球規模の災害を引き 起こすことがある。小さな噴火であっても、その上空を飛ぶ航空機が被 害を受けたり、原子力発電所が深刻な被害を受ける可能性がある。本講 義では、異なる規模や様式を生じる噴火のメカニズムについて解説し、 アジアにおける火山災害の事例を学ぶ。
参考文献:
兼岡 一郎・井田 喜明(編)『火山とマグマ』東京大学出版会、1997年
鍵山 恒臣(編) 『マグマダイナミクスと火山噴火』 朝倉書店、2003年
春山成子 HARUYAMA Shigeko
東京大学大学院新領域創成科学研究科から2007年9月に三重大学大学院生物資源学研究科に異動。田園計画学分野の教授を勤める。モンスーンアジアの巨大デルタであるメコンデルタ、紅河デルタ、タイ中央平原などでリモートセンシングを用いた地形解析並びに洪水氾濫解析を行ってきた。また、JICA等の機関を通して、洪水に悩まされるアジア・アフリカの国に技術移転を行ってきた。 Natural Hazard の雑誌編集なども手がけている。
モンスーンアジアのデルタでは雨期の降雨は洪水ともなれば、農業の恵みの水ともなる。巨大デルタのひとつであるメコンデルタを事例として洪水発生プロセスを説明するとともに、洪水がどのように農業に利用されているかについて説明する。
鼎 信次郎 KANAE Shinjiro
東京大学生産技術研究所准教授(持続可能性水文学)。地球規模の水循環の予測、評価を専門としている。人口・社会変化および地球温暖化による未来の水資源逼迫・水災害の変化、物質循環の変化を推測するとともに、日々の洪水・渇水予測についても研究している。
先週に引き続きアジアの洪水災害の特徴について概観した後に、地球温暖化によって洪水災害がどのように変化し得るかを紹介する。その際、予測の手法やそれにまつわる不確実性など最先端の研究内容についても紹介する。可能ならば、我々日本人が取るべき対応について参加者と議論したい。
関連ウェブサイト:
http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp
関谷直也 SEKIYA Naoya
東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科専任講師。東京大学大学院情報学環助手を経て、現職。災害時の情報伝達や人々の心理、環境問題をテーマとした報道・広告や社会心理など、災害や安全に関わる人々の心理とそれに関わる社会事象、制度について研究。主要著書は、『災害社会学入門』(弘文堂、共著)、『環境広告と社会心理』(同友館,単著,近刊)。
災害の時に人はなぜ逃げられないのか。人は「安全」や「災害」をどのように考えているか。災害時の心理と、それに伴う流言、風評被害、災害文化、防災教育などの社会事象や社会問題について講義する。
鷹野澄 TAKANO Kiyoshi
東京大学情報学環・総合防災情報研究センター教授(地震研究所兼務)。情報通信技術(ICT)で災害から人の命と暮らしを守る研究を進めている。特にIT強震計を用いて日頃の小さな地震の時に建物の実際の揺れを調べて、その弱点を探り、効果的な耐震対策をする研究、大地震が発生したとき、大きな揺れが来る前に検知して警報を出すリアルタイム地震情報システムの研究、高齢者など要援護者の大地震時の支援システムの研究などに興味がある。
大地震による災害を軽減する為に、普段からどのような情報が役立つか?またいざ大地震が発生したときでも、どのような情報が有用かを最近の研究成果を交えて紹介する。
関連ウェブサイト:
IT強震計について http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/ITKyoshin/
都司 嘉宣 TSUJI Yoshinobu
1947年奈良県出身。地震研究所地震火山災害部門、准教授。
津波、高潮、歴史地震が専門分野。理学部地球物理学科では海洋波浪の流体力学を担当。
津波の大部分は海で大きな地震が起きたとき発生する。地球全体として津波の80%ほどは環太平洋の地震帯で起きているので、太平洋に面している国々はどれも津波によく襲われる。この津波の発生統計、地震が弱く感じられるのに大津波がやってくる「津波地震」の話、津波に襲われやすい海岸地形、気象庁による津波警報の発令例体制、東海地震や南海地震など海溝型巨大地震と津波、津波の被害から住民を守るためになど、お話したい。日本のような中緯度の国と、インドネシア、パプアニューギニアなどの熱帯国とでは津波の起き方に違いが見られる。また2004年インドネシア・スマトラ島の津波では20万人以上の死者が出た。その最大被災地となったバンダ・アチェ市の映像を紹介したい。
中西 久枝 NAKANISHI Hisae
名古屋大学大学院国際開発研究科教授。カリフォルニア大学ロサンゼルス校大学院歴史学研究科博士課程修了、Ph.D. 専門は、中東現代政治、ジェンダーと開発。著書に、「初めて出会う平和学」(共著、2004年)、「イスラームとモダニティ」(2002年)など多数。
地震や津波などの防災体制を考える上で、ジェンダー的視点はきわめて重要である。
また、被災地の復興開発を考えるうえでもジェンダーは重要な視座を与える。それは、防災や復興開発の問題が人間の実在的な生活に関わる問題であり、そこには、日常生活における当該社会の文化や社会規範が大きく関わるからである。本講義では、こうした視点から、スリランカ、インドネシアなどの事例をあげながら、ジェンダーと防災、ジェンダーと復興開発について解説する。
鈴木 弘二 SUZUKI Koji
1998年から神戸に拠点をおきアジアの27カ国をメンバー国とする防災における国際協力の機関として活動しているアジア防災センター所長。世界銀行の防災における新たな取組であるグローバルファシリティーの事業評価委員に2007年より就任。衛星を利用した災害情報の提供、災害情報の世界共通番号化(GLIDE)の推進、アジアにおける災害情報の年次報告、防災教育、専門家の訓練などを推進。
活発な経済発展の一方で、世界の災害被害者の約9割が集中しているアジアは、災害に対して極めて脆弱な地域である。世界的に災害が頻発している状況で、日本、国連などが国際協力の場でどのような国際貢献を行っているのかを概観する。
白濱 龍興 SHIRAHAMA Tatsuoki
1966年千葉大医学部卒業、1971年自衛隊中央病院に内科医師として勤務、内科部長を経て、1992年ー1995年防衛庁本庁に行政職に。その間自衛隊の始めてのPKO(UNTACカンボジア)やルワンダ難民救援隊派遣、及び国内災害の阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件等を経験。1998-2006年自衛隊中央病院長、その間スマトラ沖巨大地震、イラク人道復興支援業務等の医療支援に関与、2006年自衛隊退職後、NPO国際緊急医療・衛生支援機構(イームスジャパン)設立、今日に至る。
①災害医療と救急医療、②災害時の初期対処3T(Triage、Transportation、Treatment)について、③国内の災害・海外の災害の際の医療支援、④災害対処の機器材等について、⑤大規模災害時の病院の役割、連携の重要性についてなど
参考文献:
白濱龍興『医師の目から見た「災害」備え、最前線、そして連携災害』内外出版、2005年
白濱龍興『ひとりひとりの「災害対策」』内外出版、2006年