2008年度夏学期 EALAI /ASNETテーマ講義 | アジアの自然災害と人間の付き合い方

月曜2限(10:40-12:10) 教室:5号館523
担当教員:小河正基(総合文化研究科准教授)/加藤照之(地震研究所教授)
東京大学 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ

アンケート紹介

2008.05.19(月)中田節也:「火山噴火のメカニズムとアジアの火山」

火山の噴火は、事前に小噴火・地震・ガス放出量の減少など様々な前兆現象があるため、ある程度予測ができる。それならば人為的に何らかの形でエネルギーを逃がすことにより噴火を抑制することはできないだろうか。(1年・文Ⅰ)
【中田先生のコメント】
巨大な地球のエネルギーに逆らうことはまず不可能です。それでもこれまでに、土手や大きな溝を作ったり、放水して冷やしたりして、溶岩が流れてこないように試みた例はありますが、文字通り焼け石に水で、ほとんど効果がありませんでした。ハザードマップを活かした町づくり等、噴火と上手くつきあう方法を考えることの方が重要です。



火山噴火がもたらす航空機や船舶への被害というのは、日本では軽視されていると講義で述べられていたようにあまり聞かないテーマだが、特に付近に火山が多い、つまり航空路に火山が多い日本にとっては重大な問題のはずである。具体的に対策するのがパイロット等であっても、それに関する知識は持っておく必要があると思う。(1年・文Ⅱ)
【中田先生のコメント】
まだ実際に墜落して大きな災害となったことがないので、「痛さ」が分からないと騒がないという社会の仕組みが心配です。国際的には衛星を使った火山灰監視システムがあり、世界中の火山監視機関と連絡を取り合っていますので、パイロットだけが対策しているという訳ではありません。



四川大地震の報道についての話は個人的には大変興味深かった。中国側は国家主席ばかりを反映しているが、日本も日本の救援隊が行ってからはそればかりを反映しているように思う。(1年・文Ⅲ)
【石井さんのコメント】
同じ救援隊の活動を伝える際にも、日本側は被害の甚大さを強調するのに対し、中国側は救援隊(人民解放軍、武装警察、国家主席など)が被害に立ち向かう姿を強調しています。これらは報道の偏向ではなく、特徴として捉えることができると思います。それぞれの報道の特徴を、自然災害が人為的に利用されるひとつの例として考えてもらえればと思います。



雲仙普賢岳で亡くなった43人の内訳を聞いた時は、それらは確実に防げた被害だと思い、また自然災害の時の人間のふるまい方にもいろいろ考えるべき点が多くあると感じた。(1年・理Ⅰ)


噴火で津波が起こる仕組みがよくわからなかった。(1年・理Ⅱ)
【中田先生のコメント】
ひとつは火山が崩れて大量の土砂が一気に海に突入した場合(例えば,雲仙)。もうひとつは火山島や海底の火山が、巨大噴火によって,大きく陥没し、その凹地(カルデラ)に周囲の海水が一気に流れ込んだ場合(例えば、インドネシアのクラカトア火山)があります。



火山噴火は山体崩壊などで近隣の住民に被害をもたらすため悪いとばかり思ってたが、地球内部の熱エネルギーを放出すること、鉱山資源確保、観光地などの景観作りなど恩恵があるということは知らなくて意外だった。(2年・文Ⅲ)
【中田先生のコメント】
日本の国立公園の多くが活火山にあります。また、テレビで見る真っ赤なマグマが放出され流れる様や、モクモク噴煙が火山から上がる様は大変スペクタキュラーでダイナミックなものです。火山噴火は、被災害以外には、ある意味美しい現象でもあります。



ミャンマー、中国において災害時の報道が偏向であるという批判がよくなされているが、これはどうだろうか。より恐るべきことは被害が国家破及び国の動揺を招くことである。ミャンマーはともかく中国が政治的に動揺することは国際政治・経済上単なる地震以上に問題であり、これを避けるために中国メディアは国威発揚報道を積極的に行っているのではないだろうか。第三国が無責任に批判することは慎むべきであろう。(1年・文Ⅰ)
【石井さんのコメント】
大きな自然災害では近年、人命救助や復興のため、国外の組織を巻き込んだ活動が行われています。政治・経済や国家の利益から物事を捉えるのではなく、国民国家の枠を超えて災害と向き合うことは本講義の趣旨のひとつでもあります。中国の報道を紹介したのは、「偏向報道だ」と伝えるためではなく、各国における災害との向き合い方を知ることで災害とは何かを考え、国の枠を超えた災害との付き合い方を考えてもらいたかったからです。今後の授業では、そういった観点から災害を考えてみてはどうでしょうか。