2008年度夏学期 EALAI /ASNETテーマ講義 | アジアの自然災害と人間の付き合い方

月曜2限(10:40-12:10) 教室:5号館523
担当教員:小河正基(総合文化研究科准教授)/加藤照之(地震研究所教授)
東京大学 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ

アンケート紹介

2008.06.16(月)鷹野澄:「災害と情報」

揺れの特徴や揺れ方が建物や周期によって全く違っていたが、免震設計は長周期の波に弱いとしたら、絶対的に揺れに強い設計方法はあるのだろうか。(2年・文Ⅰ)
【鷹野先生のコメント】
免震建築では、長周期地震動に対して免震層でよく揺れますが「弱い」かどうかは別問題です。免震層での揺れ幅が想定範囲内であれば問題にはならないでしょう。なお、どのような設計でも絶対的なものはなく限界はあるでしょう。なぜなら、どこまでを対象とするかを想定して設計する必要があるからです。



緊急地震速報の有用性、等が議論されるが、気象庁や学者が本質的に有用なシステムを構築したとしても(訓練が成されたとしても)、その伝達経路により有用性が失われることもあるだろう。たとえば、テレビのデジタル化により、発信・受信側双方に処理時間がかかるようになる。しかし、そのような問題は議論されていないように思う。(2年・文Ⅰ)
【鷹野先生のコメント】
ご指摘のように、緊急地震速報は遅延のないネットワーク回線で伝達されるべきもので、そのための「専用受信装置」が、昨年10月から多くの業者により販売開始されております。緊急地震速報は、テレビやラジオの放送ではなくて専用受信装置で受信するのが本来の利用形態です。放送では、利用者に予想震度や猶予時間などの情報を個別に提供できないなど情報提供の限界があります。専用受信装置は電源を切ることがありませんので確実に緊急地震速報を伝達できますが、放送の場合は、テレビやラジオに電源が入っていないと伝達できませんので、いざというときに伝わらない可能性が高いといえます。しかし、まだ専用受信装置が普及していませんので、広く伝達する手段として放送が昨年10月から使われるようになった訳です。
放送では、どこかで震度5弱以上が予測されたときに画面や音で警報を出します。この条件が厳しい為、最大震度5弱程度の中規模の地震の場合、警報が放送されるのが大幅に遅れるというケースが頻発しています。専用受信装置では、設置場所の震度が1以上とか2以上というようなユーザ設定が可能で、かつ、予想震度の大きさで警報音を変えるなど、きめ細かい情報提供が可能です。
伝達経路での遅延という問題では、地上波デジタル放送のほかに、携帯電話でも生じます。このため携帯電話会社は、ドコモが昨年12月から、AUが今年4月から、より遅延の少ない同報メール(基地局からそのエリア内の携帯電話に一斉配信するメール)を、緊急地震速報用にサービス開始しました。しかし、これでもまだ遅延は大きいようです。



地盤の軟硬によって地盤増幅率に差があるのはなぜか。東京にM7以上の直下型地震が発生した場合の被害予測はどうなっているのか。また、軽減策は何か行われているのか。(2年・文Ⅲ)
【鷹野先生のコメント】
地震波が硬い岩盤から軟らかい地盤に伝わると速度が遅くなって振幅が大きくなりますが、このとき地盤が軟弱なほど速度が遅くなり振幅が大きくなる傾向があるためです。
首都圏直下型地震(東京湾北部地震M7.3)が発生したときの被害予想が政府の中央防災会議で発表されており本日の授業でその一部を紹介しました。より詳しくは、中央防災会議のホームページにある報告書をご覧ください。



高潮や津波が、水深が深い方が水の動きが速いように、地層によって地震の速さに影響が出ることはないのでしょうか。(1年・文Ⅰ)
【鷹野先生のコメント】
地震波の速度は、固い岩盤では速く、硬い地盤、やや軟らかい地盤、軟弱地盤の順にだんだん遅くなります。



震央付近の震度データが少ない理由として、地震計の停電・破損などが挙げられていたが、地震計はそういった地震によるダメージに強い設計にはなっていないのか?
緊急地震速報は、一般家庭にはTV、ラジオで配信されているようだが、TV、ラジオがついていない場合の対策は考えられるのだろうか。(1年・文Ⅰ)
【鷹野先生のコメント】
地震計(この場合は震度計)は、簡単には壊れません。停電対策も多くの震度計では実施されています。しかし、大地震の断層付近では、大きな地変などでケーブルが切れるなどの被害が発生し停電や通信不能になることがあります。新潟県中越沖地震では、最大震度7の記録が約1週間後に地震計から回収されています。
(緊急地震速報のTVなどがついていない場合の対策については、上記2番目の質問の回答を参照。)



商店が地震の被害を受けた場合に、地震はおさまっても無防備になった店では盗難事件が起きるかもしれない。自然災害としての地震の被害が止めようのないものとしても、それに付随する人為な被害は防止することができる。どちらも“被害”には変わらないのだから、対策する価値はあると思う。治安維持ということも災害対策として重要だと思う。(1年・文Ⅰ)
【鷹野先生のコメント】
ご指摘の通り、災害時の治安維持は重要です。



昔、3階建ての家で、3階にいた人だけが地震で無事だったという話を聞いたことがあるが、今日の話ではむしろ上の階のほうが揺れが大きかったということでした。建物では上の方と下の方、どっちが安全なのですか?(1年・文Ⅰ)
【鷹野先生のコメント】
上階の方が大きく揺れますので、家具の転倒の場合は上階の方が危険ですが、家がつぶれる場合は、上階の方がつぶれる可能性は低いと考えられます。



緊急地震速報はただパニックを引き起こすだけに思う。今回の岩手・宮城内陸地震で緊急地震速報が震源近くではうまく機能しなかったと聞いた。速報の今以上の精度アップは可能なのだろうか。(1年・文Ⅲ)
【鷹野先生のコメント】
社会心理学者によれば、緊急地震速報そのものがパニックを起こすことは考えにくいという報告もあります。興味がありましたら、パニックを起こす条件を調べて本当か確かめてみるといいでしょう。
岩手・宮城内陸地震では、震源が約8kmと浅く、震源近くではP波とS波の差が約1秒しかないので猶予時間がありませんでした。これは原理的な限界でこの点での精度アップは困難です。しかし、震源から離れると、猶予時間が生まれて安全確保に活用できると考えられますので、やはり1秒でも早く精度良く情報を出すことが重要です。たとえば、震源の直上にいた列車が脱線しても、離れた場所の後続列車や対向列車が1秒でも早く緊急停止できれば、脱線した列車に追突するのを防ぐことが可能になりますね。



過去に発生した地震に対して多くの研究がなされ、多くのデータが提示されていて、今後の被害を最低限に抑える努力が日々なされているのだと思います。環境問題と違って、発生自体に対する「予防策」が存在しないため、いかに「適応」していくかの重要性を認識しました。(1年・文Ⅲ)

【鷹野澄先生より】
核心をついた質問があったのですが、こういう質問を授業中にその場で出していただくと良かったなと思います。もっとも、今日は質問の時間が短くて申し訳なかったですが。