2008年度夏学期 EALAI /ASNETテーマ講義 | アジアの自然災害と人間の付き合い方

月曜2限(10:40-12:10) 教室:5号館523
担当教員:小河正基(総合文化研究科准教授)/加藤照之(地震研究所教授)
東京大学 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ

アンケート紹介

2008.05.26(月)春山成子:「洪水と農業」

発展途上国は自然災害が起こると外国からの援助を受ける。それによって災害前よりインフラが整備されることがある。多くの犠牲者を生んでしまうため皮肉ではあるが、自然災害と共生する必要さえあると考えられている。(3年・文Ⅲ)



「タイでは洪水を喜ぶ」というのは農業関係者に限ったことではないかと思います。タイヤベトナムで最近増加しているエビの養殖業に携わる人びとにとっては、洪水により稚魚が死んだり、海水が進入して塩分濃度が上がって池の寿命が短くなったりしてマイナスの要素が強いのではないかと疑問に思いました。(1年・文Ⅰ)
【春山先生のコメント】
メコンデルタの最前線には養殖池が多く存在しています。また、内陸部にも養殖池が存在しています。すべての地域で同じような魚種の養殖がおこなわれてはいないので、内陸湛水地域では淡水魚を扱っています。ベトナムでは農業+養鶏+養殖で複合的経営を目指しています。昨日の洪水・湛水地域について、詳細にふれませんでしたが、このデルタでは河川洪水の影響は、地形要因から沿岸部まで及ばないことが特色です。



「洪水は水害か?」という議題よりも、水「害」という言葉の定義や概念の再認識を先にしたいと思う。古代エジプトにとって、ナイルの氾濫は恵みであったし、講義で出たカンボジアでも同じであろう。その場合であっても、洪水は一時的には害であって、それを「水害」と呼ぶのであれば、「洪水は水害である」という命題は常に真であろう。「水害」とはそもそも何たるものかというテーマが先に立つと思う。(1年・文Ⅰ)


東南アジアは、日本と違って農業で生計を立てている人も多く、洪水との関係、洪水に対する姿勢も大分異なっている。外国の災害対策など国際的なプロジェクトに携わりたいと考えている人は、日本の技術や考え方を押し付けるのではなく、その地域について深く知り、地域性を尊重しなければならないということを学んだ。(1年・文Ⅲ)


東南アジアと日本における洪水の価値観の違いは、それぞれの洪水が起こる頻度、そして人と洪水との緊密性が関係しているのではないか。新潟で毎年冬に大雪が降るように東南アジアの人々も洪水をとらえ、もはやそれは季節のごとく考えられている。だからこそ東南アジアでは日本のように洪水を阻止しようとするのではなく、例年起こるものとしてそれを前提に生活様式を作り上げているのだと思う。(1年・文Ⅲ)


洪水に対する考えは国によって違い、かつ地域間で差があるのなら、誰を基準に最善の方法やプランを考えればよいのだろうか?また、どの災害を見越して、現地の人は家を建てているのだろうか?(浸水が普通なら地震などに弱くなったりしないのか?)(1年・理Ⅰ)


洪水を農業に利用するのは昔からの知恵ではあるが、都市を造ってしまった以上は洪水の被害はできるだけ避けなければならないし、情報化社会になれば情報インフラは絶対に守らねばならないものとなる。これから発展していく地域ではその地域の災害に応じた都市の形式を考えなければならないと思った。(1年・理Ⅰ)


日本の都市部でも、100年、200年確率での水害防止のために三面コンクリート張りにしてしまった小河川(どぶ川)を、水辺の警官を取り戻すために自然に近い状態に戻そうという動きがあるときいたことがあります。都市部でも透水性舗装などを利用して防災と警官の両立を目指すという考え方も、これからの日本ではあるのではないかと思いました。(1年・理Ⅰ)
【春山先生のコメント】
河川工事で日本の河川は大きく変化しています。現在、河川工事で求められているものに河川を生態系のコリダーとして考える、そのために、洪水軽減を考えながら河床の植生をどの程度まで受容できるのかを考えています。また、多自然型河川つくりも導入されています。



メコン型の共生タイプの洪水への対応から日本型の洪水対策への移行は多くある例だが、日本型からメコン型への移行・メコン型の利点の採用の動き、アフリカ等他地域へのメコン型の対応はないのか。(1年・文Ⅲ)


タイ人(特に農民)は洪水を水害としてでなく、恵みとして捉えているという話があったが、タイ人の農民は洪水によって命を落とすなど被害を受けることはないのだろうか、と疑問に思った。一度でも被災経験があるならそうのん気に恵みだなどとも言っていられないと思うのだが。(1年・文Ⅰ)
【春山先生のコメント】
タイ人の洪水認識は1988年の南部タイ・タピ川流域の豪雨による土砂災害で多くの人命を失い、認識が大きく変わりました。この災害以降、ダム。堤防建設に力を入れるようになりました。また、タイ国王は洪水の原因を森林伐採にあったとして、森林伐採を止めようにと通達を出しています。また、日本の技術の輸入もあり、タイ中央平原でも徐々に稲作の様式(ハイブリッドライスの導入、二期作、三期作、機械化など)が変わり、長期にわたる洪水を危険視するようになっています。



洪水への地域における意識の違いについてが講義の中心だったが、ダムなどの建設によりそういった意識が変化するということは、メコンデルタなど現在共生を目指している地域でも将来においてあるのだろうか。(1年・文Ⅰ)


がんや病気で亡くなっていく人の体のケアや、心のケアや、家族の気持ちを支えようとするには、医学的な、病気に対する知識が必要とされるように、自然災害のメカニズムなどの研究をすることは、少々遠回りではあるが、被災者を助けることにきっとつながると思った。(2年・理Ⅱ)

【春山成子先生より】
講義のテーマは洪水は水害か、水の恵みかという、2つの異なる認識について具体的な事例をあげてお話をしました。わたくしが提供した話の柱をよく理解してくださり、多くの質問・疑問・コメントを書いていただいたことを感謝しています。洪水・水害・防災認識は時代(時間軸)、地域(空間)、社会、経済。。。。さまざまなデメンジョンで変化しています。また、災害は南北問題であり、日本のなかでも異なった見方があります。また、タイでも、ベトナムでも、社会の変化は自然災害への付き合い方が変化しています。しかし、200年確率で防災を考えてきてさえも、やはり水害は発生しているという事実もあります。
受講生の感じたすべての疑問にコメントをおかえしすることができませんが、この講義で感じたこと・疑問に思ったことを、受講生一人一人が「事実を明らかにする」、「地域性の生まれる背景を明らかにする」。。。。など、今後の研究課題の一つとして解明に向かっていただけたら、幸いです。