2007年度夏学期 EALAI /ASNETテーマ講義 東グローバル・ヒストリーの挑戦

月曜5限(16:20-17:50) 教室:5号館524教室
担当教官:木畑洋一/水島司
東京大学 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ

講義内容紹介

グローバル・ヒストリーの挑戦

歴史教科書問題に象徴されるように、歴史認識を共有化するための歴史教育は、国民国家の重要なイデオロギー的装置である。一国史を相対化すべき役割の世界史も、しばしば自国と周辺地域の国民国家史の寄せ集めである。

他方、一国史を超える可能性をもったマルクス史学は、現実の政治運動との近接性ゆえに影響力を失い、一時おおいに注目を浴びた社会史やポストモダンの歴史学も、歴史の普遍性や方向性を求める人々の支持を得られなかった。

しかし、グロバリゼーションの無数の渦が全体として大きな渦を生み出している現在、歴史学は、特定の空間枠における特定の時間枠の変化、あるいは特定のトピックに集中するいわばミクロな歴史世界に埋没し続けるわけにはいかない。

「グローバル・ヒストリーの挑戦」は、今大きな注目を浴びているアジア史再認識の動きを中心に据えながら、世界史認識をめぐる新たな状況を第一線で引っ張る人文系、理工系の講師をお招きし、グローバル・ヒストリーの目指す先を語って頂く。多くの学生諸君の参加を期待する。


2007.04.16(月)水島 司 MIZUSHIMA Tsukasa(南アジア史:東京大学) グローバル・ヒストリーの挑戦

水島 司  MIZUSHIMA Tsukasa 

東京大学文学部・大学院人文社会系研究科 教授(南・東南アジア歴史社会)。近・現代の南アジア、特に南インド史を専門としている。現在は、18-20世紀南インドを対象に歴史地理情報システム論の研究を行っている。主著は『18-20世紀南インド在地社会の研究』(東京外大アジア・アフリカ言語文化研究所、1990年)であり、他に編著『ムガル帝国から英領インドへ』(中央公論社)、『世界システムとネットワーク』(『現代南アジア』6・東京大学出版会)などがある。

水島司研究室     
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~zushima9/
文学部東洋史学研究室
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~toyoshi/

2007.04.23(月)小松久男 KOMATSU Hisao(中央アジア史:東京大学)イブラヒムの旅:ロシア・オスマン帝国・日本
革命と戦争が世界情勢を大きく変えた20世紀の前半、イスラーム世界とロシアそして日本を舞台に活動した汎イスラーム主義者、アブデュルレシト・イブラヒム(1857-1944)の軌跡をたどり、地域を越えた歴史の連関に着目したい。

小松久男 KOMATSU Hisao

東京大学文学部・大学院人文社会系研究科 教授(西アジア歴史社会)。近・現代の中央アジア、特に西トルキスタン史を専門としている。ロシア史の視点から中央アジア史をみるのではなく、地域社会に視点をすえて知識人の改革運動、神秘主義のシャイフによる民衆運動の指導などを具体的に描き出す作業を続けている。主著に『革命の中央アジア:あるジャディードの肖像』(東京大学出版会)があり、他に編著『中央ユーラシア史』(山川出版社)などがある。

文学部東洋史学研究室
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~toyoshi/

2007.05.07(月)羽田 正 HANEDA Masashi(西アジア史:東京大学) イスラーム世界の創造と新しい世界史

羽田 正 HANEDA Masashi

東京大学東洋文化研究所 教授(西アジア研究部門)。専門は比較歴史学。主な著書に『イスラーム世界の創造』(東京大学出版会)、『港町に生きる』、(『港町の世界史』2・編著・青木書店)、『シャルダン「イスファハーン誌」研究』(編著、東京大学出版会)などがある。

羽田 正研究室
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/haneda/

2007.05.14(月)黒田明伸 KURODA Akinobu(貨幣史:東京大学) 貨幣が語る世界史

黒田 明伸 KURODA Akinobu

東京大学東洋文化研究所 教授(東アジア第一研究部門)。伝統中国の貨幣・金融・市場構造・財政、ならびにそれらについての日本・朝鮮・インド・紅海周辺ならびに西ヨーロッパとの比較研究、16 世紀以降の世界経済とアジア諸帝国との相互連関、貨幣間の補完性についての理論的研究を行っている。主な著作に、『中華帝国の構造と世界経済』(名古屋大学出版会)、『貨幣システムの世界史 : 「非対称性」をよむ』、(『世界歴史選書』1巻・岩波書店)がある。

東京大学東洋文化研究所
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/activities/kuroda.html

2007.05.21(月)Ken Pomerantz (中国史:カリフォルニア大) What Can history Offer to Global Studies?

KENNETH L. POMERANZ ケネス・L・ポメランツ

カリフォルニア大学アーバイン校 教授(University of California, Irvine. Department of History , UCI Chancellor's Professor of History)。専門は中国近代史。特に清朝末期から20世紀にかけての、国家・社会と経済の相互関係に関する研究や、世界経済の形成を、多数の地域の相互関係から捉える研究を行っている。主要著書に、The Great Divergence: China, Europe, and the Making of the Modern World Economy(Princeton University Press),The Making of a Hinterland: State, Society and Economy in Inland North China, 1853-1937(University of California Press)などがある。

2007.05.28(月)島田竜登 SHIMADA Ryuto(貿易史:西南学院大学) 近世アジア間貿易とイギリス産業革命
アジア間貿易史論とは、経済史研究において近年、発展をみた分析視角で、国 際分業を基盤としたアジア経済全般の進展を歴史的に考察するものである。こ の議論では殊にヨーロッパ勢力のアジア市場への参入による影響に関して見解 が分かれている。そこで、本講義では、オランダ東インド会社の日本銅貿易を 題材に、近世のアジア間貿易の実態を検証すると同時に、イギリス東インド会 社のヨーロッパ銅貿易を対置させ、イギリス産業革命の世界史的意義をも考え てみたい。

島田 竜登 SHIMADA Ryuto

西南学院大学経済学部 准教授。専門はアジア経済史。アジア間貿易史や、日本とアジアの経済関係史、オランダ東インド会社史を主に研究している。今回の講義に関係する主要な著作として、The Intra-Asian Trade in Japanese Copper by the Dutch East India Company during the Eighteenth Century (Brill Academic Publishers) 、「18世紀における国際銅貿易の比較分析:オランダ東インド会社とイギリス東インド会社」(『早稲田政治経済学雑誌』第362号)がある。

西南学院大学経済学部
http://www.seinan-gu.ac.jp/gakubu/k_k_k/jiseki.html#SHIMADA

2007.06.04(月)山下範久 YAMASHITA Norihisa(歴史社会学:北海道大学) 世界システム論からグローバル・ヒストリーへ
歴史学には、それ自体に歴史があり(メタヒストリーといいます)、グローバル・ヒストリーも、その外部にあるものではありません。 私の担当回では、広く20世紀以降のメタヒストリーの文脈のなかで、世界システム論からグローバル・ヒストリーにいたる問題関心の系譜をたどる作業をお話したいと思います。

山下 範久 YAMASHITA Norihisa

立命館大学国際関係学部 准教授。専門は世界システム論、歴史社会学。マクロなパースペクティヴから、空間認識の構造的変容を分析する。主要著書に、『世界システム論で読む日本』(講談社)、『帝国論』(編著・講談社)、訳書に、『入門・世界システム分析』(イマニュエル・ウォーラーステイン著・藤原書店)などがある。

山下 範久研究室
http://www.norihisa-yamashita.net/

2007.06.11(月)城所哲夫 KIDOKORO Tetsuo(都市論:東京大学) アジア都市は近代都市計画をいかに受け入れたか
都市改良の技術としての近代都市計画は、20世紀初頭に欧州と北米で生まれ、20世紀を通じて世界に広まっていった。本講義では、日本を含むアジア諸国における近代都市計画の受容のあり方から、東京の密集老朽木造地帯や途上国の都市スラムの形成にみられるようなインフォーマルな都市化を読み解き、これからのアジア都市の再生のあり方を展望する。

城所 哲夫 KIDOKORO Tetsuo

東京大学工学部・大学院工学系研究科 准教授(都市計画)。専門は途上国都市計画論、市民都市計画論。特に、コミュニティー・レベルでの参加型計画論や、自立的な都市・地域件の形成とローカルガバナンス論、アジア都市計画の制度変容論を論じている。主要著作(共著)に、 『都市を構想する』(鹿島出版会)、『都市再生のデザイン』(有斐閣)がある。

工学部・大学院工学系研究科 国際都市計画・地域計画研究室
http://www.onishiken.t.u-tokyo.ac.jp/

工学部・大学院工学系研究科 都市工学専攻
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/info/department/urban/index.html

2007.06.18(月)須貝俊彦 SUGAI Toshihiko(自然環境学:東京大学) 変動するアジアの自然環境―その現在・過去・未来

須貝 俊彦 SUGAI Toshihiko

東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授(自然環境学)。専門は自然地理学、自然災害科学、環境動態解析。特に、氷期・間氷期の環境変動と平野の埋積過程についての研究、活断層の分析(トレンチ調査・ボーリング掘削調査)による古地震の研究、隆起山地の侵食過程の研究を行う。主な著作に、River terrace development by concurrent fluvial processes and climatic changes(Geomorphology, 6)『自然環境の評価と育成』(共著・東京大学出版会)などがある。

大学院新領域創成科学研究科 自然環境変動学分野
http://changes.nenv.k.u-tokyo.ac.jp/
理学部地球惑星環境学科
http://www.eps.s.u-tokyo.ac.jp/jp/gakubu/chikyu/members/Sugai.html

2007.06.25(月)川島博之 KAWASHIMA Hiroyuki(農学:東京大学) 生物資源と人類の100年、1950~2050

川島 博之 KAWASHIMA Hiroyuki

東京大学農学部・大学院農学生命科学研究科 准教授(国際環境経済学)。専門は、環境経済学。特に、水質汚染問題のシステムモデルによるシミュレーション分析およびリモートセンシング技術を利用した食料生産変動予測の研究を行っている。本講義に関係する著作に、『人類生存のための化学上・下』(新産業化学シリーズ19巻・共著・大日本図書)、『東京湾-100年の変遷』(共著・恒星社厚生閣)などがある。

大学院 農学生命科学研究科 農学国際専攻 国際環境経済学研究室
http://www.ga.a.u-tokyo.ac.jp/lab/ooga_lab/gaiyo/gaiyo_j.html

2007.07.02(月)松本 良 MATSUMOTO Ryo(地球環境:東京大学) 湖の堆積物に中国王朝の歴史を読む:地質学者の目

松本 良 MATSUMOTO Ryo

東京大学理学部・大学院理学系研究科 教授(地球生命圏科学)。専門は、堆積学・化学堆積学。浅海成炭酸塩岩の堆積相解析と化学層序から地球環境変動の解明、海洋ガスハイドレートの環境への影響と資源ポテンシャルの評価、劇的環境変動要因としての「ガスハイドレート仮説」の実証を行っている。主要著書・論文に、Comparison of marine and permafrost gas hydrates: Exmaples from Nankai Trough and Mackenzie Delta(Proc. 4th ICGH)、『メタンハイドレート:21世紀の巨大天然ガス資源-』(共著・日経サイエンス社)がある。

松本 良研究室
http://www-gbs.eps.s.u-tokyo.ac.jp/matsumoto/

2007.07.09(月)秋田 茂 AKITA Shigeru (帝国史:大阪大学) アジア国際秩序とイギリス帝国、ヘゲモニー
グローバルヒストリーを構築する上で、「比較」と「関係性」という二つのキイ概念が重要である。この講義では、特に関係史的観点から、20世紀前半のアジア国際秩序の形成とイギリス帝国が果たした役割を考察することで、グローバルヒストリーの一つの在り方を提示したい。

秋田 茂 AKITA Shigeru

大阪大学文学部・大学院文学研究科 教授(西洋史・世界史)。専門は、イギリス帝国史及びグローバル・ヒストリー。19-20世紀のイギリス史を帝国・コモンウェルスとの関係から研究し、特に南アジア、東アジア諸地域と近現代イギリスとの関係を、政治外交史と経済史の両面から追及する。主要著書に、『イギリス帝国とアジア国際秩序―ヘゲモニー国家から帝国的な構造的権力へ』(名古屋大学出版会)、『パクス・ブリタニカとイギリス帝国』(編著・ミネルヴァ書房)、Gentlemanly Capitalism, Imperialism and Global History (編著・Palgrave-Macmillan)などがある。

大阪大学文学部 西洋史学研究室
http://www.let.osaka-u.ac.jp/seiyousi/faculty.html

2007.07.17(火)木畑洋一  KIBATA Youichi(帝国史:東京大学) グローバル・ヒストリーと帝国論
グローバル・ヒストリーへの視座は、国民国家を単位とするナショナル・ヒストリーを相対化していく視点を必要とする。そこで浮上してくるのが、近年盛んに議論されている帝国論である。この講義においては、最近の帝国論を批判的に検討しつつ、帝国論や帝国主義論がグローバル・ヒストリーにとってもつ意味を論じてみたい。

木畑 洋一 KIBATA Youichi

東京大学教養学部・大学院総合文化研究科 教授。専門はイギリス現代史・イギリス帝国主義史・第二次世界大戦期およびその前後の国際関係史。現在の関心の中心は,アジアにおける英帝国の脱植民地化過程や帝国意識の国際比較など。主要著書・論文に、Anglo-Japanese Relations 1600-2000.Political-Diplomatic Dimensions,2vols.(共編・Macmillan)、『国際体制の展開』(山川出版社)、『帝国のたそがれ』(東大出版会)がある。

大学院 総合文化研究科 国際社会科学専攻
http://www.kiss.c.u-tokyo.ac.jp/