南京大学集中講義
「表象の歴史としてのロシア映画」/ 浦 雅春(ロシア文学・芸術)
この講義では、表象文化論の観点からロシア映画を分析する。ロシア文化は中世以来きわめて強力な「文学中心主義」(ロゴセントリズム)の支配下にあった。それゆえ20世紀の視覚文化を代表する映画芸術は否応なくこの「ロゴス」との対決を迫られた。
ことばの桎梏からのがれ、ことばを無効化しようとたロシア・アヴァンギャルドと手を携えて映画言語の革命をもたらしたエイゼンシテインやヴェルトフ、「文学」を頂点とする文化ヒエラルヒーに垂直統合されたスターリン期の映画、そして社会主義リアリズムのロゴセントリズムを視覚の快楽によって解体させたタルコフスキーやパラジャーノフ。20世紀のロシア映画の歴史は表象の闘いの歴史にほかならなかった。
(*は、参考文献)
1)ロシア・サイレント映画におけるメロドラマ的要素
*Yuri Tsivian, Early Cinema in Russia and its Cultural Reception.
2)モンタージュの発見:クレショフからエイゼンシテインへ
*Denise J. Youngblood, Siviet Cinema in the Silent Era, 1918-1935.
3)映画の攻撃的要素:エイゼンシテイン
*David Bordwell, The Cinema of Eisenstein.
4)事実(ファクト)としての映画:ジガ・ヴェルトフ
*Jeremy Hicks, Dziga Vertov: Defining Documentary Film.
5)1920年代から30年代へ:「水平」と「垂直」
*Richard Taylor and Derek Spring (eds.), Stalinism and Soviet Cinema.
6)「視覚の快楽」の再発見:タルコフスキーとパラジャーノフ
*Vida T. Johnson and Graham Petrie, The Films of Andrei Tarkovsky: A Visual Fugue.
日本語参考文献
*岩本憲児『ロシア・アヴァンギャルドの映画と演劇』水声社、1998年
*大石雅彦、田中陽編『ロシア・アヴァンギャルド3 キノ 映像言語の創造』国書刊行会、1994年
*リュダ&ジャン・シュニッツェル、マルセル・マルタン編『回想のロシア・アヴァンギャルド』
岩本憲児、大石雅彦、宮本峻訳、新時代社、1987年