このセッションでは、四大学がそれぞれ所属する地域の文化的特性を踏まえた上で、どのような古典教育が可能か、具体的な提言があった。
東京大学の神野志隆光教授からは、従来の古典研究が、それぞれの地域を中心として、それ以外の地域との関係を影響や受容というタームでしか扱ってこなかったことに対し、同じ古典世界における交通という観点から、新たな研究と教育の試みを開始したことが紹介された。
北京大学の王逢鑫教授からは、各地域の文化を尊重すること、それぞれの文化の伝統を尊重することの両面から、古典教育の充実を図るべきだとの意見が述べられ、具体策として、古典教育をテーマとした定期討論会の開催、古典教育の専門機関の設立と資料の共有、古典籍の整理校訂と啓蒙書の出版が挙げられた。
ソウル大学のジュ・ギョンチョル教授からは、大学の教養教育において古典を活用するための方法として、ソウル大学では『東西古典200選』『勧奨図書100冊』として大学生のための古典を選定する試みを行っているが、実用性やバランスの面からは問題が少なくないという現状が報告され、より広い視野にもとづいた古典叢書を東アジア四大学共同で編纂してはどうかとの提案がなされた。
ベトナム国家大学ハノイ校のファン・フイ・レイ教授からは、四つの地域が、歴史的には儒教を中心とする東アジア文化空間に属しつつ、それぞれ独自の文化的発展を遂げてきたことを重視し、古典教育においては、漢字文化と固有の文化の両方を学ぶ必要があることが述べられた。ファム・スアン・サイン准教授からは、ベトナムにおける古典教育について、東西古今それぞれの要素が絡み合って成立している歴史的経緯が述べられた。
東京大学の中島隆博准教授は、それぞれの報告をまとめた上で、伝統文化における非対称性を古典教育においてどのように扱っていくか、近代の東アジアに影響をおよぼした西洋の古典をどのように組み込んでいくか、などの問題が提起された。