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第9回東アジア四大学フォーラム東京会議 / BESETOHA

四大学フォーラムによせて / 西中村 浩(東京大学教養学部 副学部長)


東アジア四大学フォーラムは、1999年以来毎年開催され、中国、韓国、ベトナム、日本における高等教育を牽引していく位置にある4大学の研究者が、東アジアという地域における大学の役割、とりわけ教養教育のもつ意味について議論を重ねてきた。第1ラウンドの会議では、主としてアジア的価値を問い直し、東アジアの文化的共同性とその今日的な意義とはなにかということについて議論された。第2ラウンドでは、第1ラウンドでの議論の成果を受け、東アジア諸国の間の地域的連携がますます強まっている現在、東アジア地域が全体として調和的発展を遂げるとともに、知の共同体を構築するためには、この地域における文化的多様性を十分に考慮に入れた上で、様々な領域において議論を深めていく必要があるという認識の上に立って、共通の文化を創造し、持続的発展を可能にするために大学教育、とりわけ教養教育の果たすべき役割は何かについて議論がなされた。さらに、ソウルでの2005年の第7回会議、ハノイでの2006年の第8回会議からは、自然科学系の研究者も参加し、東アジアにおける持続的発展の問題も議題として取り上げられた。  その成果は、2006年11月のハノイ会議で採択された「東アジア四大学フォーラム ハノイ宣言」に反映されているが、そこでは四大学フォーラムをさらに強化・発展させ、正式のネットワークにしていくと同時に、この4大学が核となって世界の他の地域との交流を促進していくことが確認された。

東京大学130周年事業の一環として開催された第9回東京会議は、2ラウンド、8年間のフォーラムの活動の成果を踏まえ、次の段階に入る第3ラウンドの初回の会議である。したがって、今回はこれまで積み重ねられた議論や4大学の研究・教育の交流の成果を、広範な学生の交流、共通教科書や共通シラバスの実現という形で、具体的に4大学の研究・教育活動に結びつけていくという問題を中心にすえて、議論が行われた。初日は、午前中に、学生交流に関する4大学の総長の基調講演がなされ、各大学における学生交流の実情や方針が報告された。その後、「ハノイ宣言」の精神を具体化し、4大学間の組織的な交流基盤を構築することを目指す「東アジア四大学フォーラムに関する協定書」の調印式が行われた。午後には、2つのセッションが開催された。第1セッション「文化的多様性と古典教育」では、東アジアの地域の歴史的・文化的違いを基盤において、東アジアにおける共通の教養教育の創成に向けて議論を行われ、第2セッション「大学における環境教育」では、東アジア地域の持続的な発展のために、人文・社会科学と自然科学とを連携させた文理融合的な教育を各大学の教養教育で具体的に展開する方法について議論を行われた。第2日目には、ワーキング・セッション「遠隔教育について」が開催され、インターネットを利用して、4大学で共通のシラバスによる共同授業を実施するための具体的な方策について検討が行われた。

また、ハノイ会議で試行的に行われた学生パネルが、今回の会議から本格的にはじまった。北京大学、ソウル大学、ベトナム国家大学ハノイ校から4名ずつ、東京大学から10名の学生が参加して行われたこのパネルでは、まず第2セッションに参加した4大学の教員による学生向けの講演「東アジアにおける伝統と環境問題」を聴講した後、「環境対策と東アジア:環境問題に東アジアの伝統をどう生かしていくか」という議題で学生たちが活発に討論を行った。学生が積極的に参加し、それぞれの国の歴史的・文化的な相違を互いに理解しながら、東アジア地域において共通の問題をともに考え、議論していく学生パネルが加わったことによって、フォーラムは共通の基盤を持った世界市民をこの地域で育てていくという目標に一歩近づいたといえよう。  この四大学フォーラムは基本的に中国語、韓国語、ベトナム語、日本語の四か国語で運営されている、今回もこの方針が踏襲され、環境教育に関するセッションと学生パネルが英語で行われたが、それ以外は四か国語の同時通訳で行われた。ここには、将来、4大学に学ぶ学生が英語以外に近隣諸国の言語を最低1つは学んでほしいという願いがあるからでもあるが、とりわけこの地域の文化に関する議論においてはそれぞれの言語がきわめて重要であるという認識もある。このやり方は単にそれぞれの言葉を知っているだけでなく、歴史や文化に関して深い理解をもった翻訳者・通訳者の存在が不可欠であるが、四大学で開催されるいずれの会議が支障なく運営されていることは、それぞれの大学においてこうした翻訳・通訳の任を果たすことのできる人材が育っていることの証でもある。

最後に、今回の会議の成功は、上記の翻訳・通訳に当たった方々、四大学の関係者、そして東京大学においてフォーラムの中心的な運営に当たった東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブの関係者の献身によることを記し、感謝したい。