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「第7回東アジア四大学フォーラム・ソウル会議」井坂理穂(『駒場2005』)


左:ソウル会議の模様 右:ソウル雑景 (写真はEALAIによる)

10月28日、第7回東アジア四大学フォーラムがソウルで開催された。このフォーラムは、東京大学、北京大学、ソウル大学校、ベトナム国家大学ハノイ校の四大学間の研究・教育交流を目的として、1999年の東京会議に始まり、毎年開かれているものである。今年は「東アジアの持続的開発(Sustainable Development in East Asia)」を全体テーマとして活発な議論が展開された。会場はソウル・プラザ・ホテル二十二階にある見晴らしのよいホールで、例年と同様、日本語・中国語・韓国語・ベトナム語の同時通訳がつけられた。


開会後、まず四大学の学長による基調講演が行われた。本学の小宮山宏総長は、21世紀の学術界においては世界的普遍性と文化的多様性を追求することが重要であるとして、学術再編の必要性を論じた。続く第一セッション「東アジアの持続的開発」では、午前中に木村秀雄氏(東京)「人間の安全保障と持続的開発」、横山伸也氏(東京)「バイオマス・アジア戦略実現のためのR&D」、フン・スアン・ニヤ氏(ベトナム)「アジアの持続的開発における大学の役割」の三報告が行われた。木村氏は、駒場の総合文化研究科で昨年度から開始された「人間の安全保障」プログラムの概略を紹介するとともに、氏の調査地域である南アメリカの事例などを交えながら、「人間の安全保障」の概念と「持続的開発」との関わりを論じた。横山氏は、化学燃料の代替としてバイオマスエネルギーを利用する可能性を示し、今後、アジア諸国が協力して「バイオマス・アジア戦略」を構築することを提言した。フン氏の報告は、持続的発展の概念を、経済・社会・環境の三要素間の関係性から論じるとともに、大学が果たすべき役割を検討した。これを受けて、ダン・スアン・カン氏(ベトナム)のコメントでは、ベトナムにおいて持続的開発の概念が受け入れられるようになった経緯が紹介された。


昼食をはさみ、午後には、劉民権氏(北京)「人類発展の視点と持続的開発」、金丁勖氏(ソウル)「東アジア工業化の環境に対する影響と持続的開発に向けての戦略」の二報告が行われた。劉氏は異なる経済発展モデルを持続的開発の観点から検討し、金氏は東アジアの環境問題を具体的に分析したうえで、今後とるべき戦略について考察した。これらの報告に対する丸山真人氏(東京)のコメントでは、環境問題に関する新たな論点が紹介され、地域共同体の役割の重要性が指摘された。総括討論のための時間が十分にとれなかったのが惜しまれるが、セッション全体を通じて各報告者間に共有される問題意識が明らかになり、今後のさらなる研究協力の可能性をうかがわせた。


午後4時からは、「四大学の役割」をテーマとした第二セッションが行われた。まず、陳洪捷氏(北京)の報告「官僚主義的管理と学術の創造性 21世紀の大学が直面する根本的な挑戦」があり、大学において官僚主義的な管理を強めようとする動きと、これに対立する学術活動の立場とが論じられた。これを受けて、コメンテーターのグエン・バン・ニヤ氏(ベトナム)は、ベトナムの事例を参照しながら大学改革の方向性を論じた。次に、内野儀氏(東京)の報告「CWPとは何か? 21世紀のアカデミック・ライティング教育」があり、現在、東大の英語教育において進められている「書く能力」の育成を中心にすえたカリキュラム改革が紹介された。東大の事例に続いて、金泳楨氏(ソウル)、ジェームズ・コーブス氏(ソウル)からは、ソウル大での「書く能力」の育成のための試みが紹介され、その結果、両大学が進めている改革の類似性や共通の課題が浮き彫りになった。教育の現場に関わる問題であるだけに、フロアーの関心も高かったが、時間切れのために報告の終了をもって閉会となった。今後の各大学における改革のゆくえが大いに注目される。


なお、会議前日の10月27日には、東大、ソウル大の教員間の交流会が開かれ、両大学における教養教育の現状をめぐって意見が交わされた。また、28日の夜には市内観光バス・ツアーが、29日の午前中にはソウル大キャンパス・ツアーが、ともにソウル大の学生有志の案内で行われた。広大で美しいキャンパスとともに、彼らの生き生きとしたユーモアあふれる説明が印象に残った。