EALAI東京大学 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ
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「東アジア四大学フォーラム(ソウル会議)」齋藤希史(『駒場2013』)

 「東アジア四大学フォーラム」(BESETOHA)は、日本、中国、韓国、ベトナムの東アジア4 カ国における代表的な総合大学である東京大学、北京大学、ソウル大学校、ベトナム国家大学ハノイ校が、特定のテーマや個別の機関において行っている教育・研究交流を超え、四大学としての相互交流を行うことで、東アジアにおける教育・研究の共通のプラットフォームの構築と維持を目指すために組織されたもので、1999 年以来、年1 回、4 大学の持ち回りで開催されている。フォーラムでは、個々の大学が直面するさまざまな経験と問題意識を共有しながら、それぞれの大学の組織的な交流基盤を構築するとともに、4 つの大学が連携・協力して、各国の歴史的・社会的、かつ文化的な相違を踏まえつつ、21 世紀の東アジアにおける大学教育や研究を連携して推進するための体制や具体的な方法について議論を行ってきた。
 第4 ラウンドの3 回目にあたる第15 回会議は、12 月 5 日、6 日に、“Asian Consensus for Education”を全体テーマとして、ソウル大学校で開催され、濱田純一総長、羽田正国際本部長のほか、伊藤たかね大学院総合文化研究科副研究科長、古田元夫総合図書館長、阿古智子准教授、石井剛准教授、岩月純一准教授、鹿毛利枝子准教授、齋藤希史教授、清水剛准教授、高橋英海准教授、高原明生教授(法学部)、月脚達彦教授、西中村浩教授、三ツ井崇准教授が参加し、齊藤良子特任講師が事務補佐等にあたった。
 5 日はソウル大学校による歓迎レセプションが開かれ、ソウル大学芸術学部の学生による民族舞踊や歌曲の朗唱が印象的であった。6 日午前には、開会式に引き続き、4 大学の総長による基調講演が行われ、さらに午後には、“Asian Consensus for Education”のテーマに基づき、“Chinese Studies”、“Korean Studies”、“Japanese Studies”、“Vietnamese Studies”、“Classics in Liberal Arts Education”の5 つのワークショップが開かれた。
 基調講演では、“Asian Consensus for Education”つまり「教育に向けてのアジア的合意」について、今後果たしていく役割について、各大学から取り組みの総括と提言があり、本学の濱田純一総長からは「アジアのアジア化」に関する提案がなされた。
 第1 サブフォーラム“Chinese Studies”では、高原明生教授により現在の日本および東京大学で行われている現代中国研究の現状について報告が行われ、韓国およびソウル大学校での研究の現状との違いなどをめぐって意見交換が行われた。
 第2 サブフォーラム“Korean Studies”では、三ツ井崇准教授により、日本における韓国(近代史)研究と教育についての報告が行われ、4 カ国における韓国研究・教育の性格の共通点と違いを確認した後、4 大学の学生交流等のプロジェクト実行の可能性について検討が行われた。
 第3 サブフォーラム“Japanese Studies”では、鹿毛利枝子准教授により、ここ30 年ほどの間、日本で行われてきた日本政治研究について報告が行われ、今後日本政治研究が進むべき方向性をめぐり、活発な議論が行われた。
 第4 サブフォーラム“Vietnamese Studies”では、岩月純一准教授により、日本におけるベトナム研究の歴史と展望についての報告が行われ、4 カ国の研究の相違点と、今後の研究協力の可能性について意見交換が行われた。
 第5 サブフォーラム“Classics in Liberal Arts Education”では、石井剛准教授により、21 世紀の東アジアにおける教養について、東京大学における教養教育に関する紹介と新しい試みと共に報告が行われた。特にルソーの『学問芸術論』に返って教養としての学問の意義を問い直そうという趣旨に注目があつまった。
 今回のフォーラムでは、4 大学間の協力を推進することを前提として、4 カ国における各研究分野の共通点と相違点について議論されたこと、また、各大学間の学生交流等の実行の可能性について具体的に検討されたことなどが、大きな成果として挙げられよう。
 なお、今回のソウル会議では基調講演は各国語で行われ、4 カ国語へ同時通訳された。各サブフォーラムでは基本的に当該研究地域で使われている言語を用いて議論されたが、“Classics in Liberal Arts Education”では英語で議論され、“Vietnamese Studies”ではベトナム語と韓国語が使用され、サブフォーラムでは唯一韓越の同時通訳が入った。研究地域の言語を使用するということは、議論の円滑化には資するところもあるが、その言語使用者以外は議論に参加できないというデメリットがある。本フォーラムが東アジア各国の歴史と文化を尊重する立場から開催されるものであることからすれば、運用言語においても、4 カ国語の使用を原則とすべきであろう。