EALAI東京大学 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ
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「東アジア四大学フォーラム・ハノイ会議」森山工 (『駒場2006』) 

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(写真はEALAIによる)

「東アジア四大学フォーラム」は、東京大学、ソウル大学校、北京大学、ベトナム国家大学ハノイ校の4大学が、毎年、交互に持ち回りで主催校となり、大学教育、とりわけ教養教育のあり方を中心に共同討議を行う大学間会議である。北京・ソウル・東京・ハノイの英称にこの順でちなんで、BESETOHAとも呼ばれる。この会議が、2006年はベトナム国家大学ハノイ校の主催のもと、11月3日と4日の両日、ハノイ市内で開催された。今回の会議は、東京大学の主催により1999年に開かれた第1回会議から数えて8回目、すなわち第2ラウンドの最後の会議である。テーマは「文化的多様性と持続可能な開発─高等教育の果たす役割」であった。


この「四大学フォーラム」は、東アジアという、内部に文化的な差異を含み持ちながら、ある種の文化的共通性をも分有している地域の4大学が、その文化的な差異を相互に尊重する一方で共通の基盤を認識し合い、そのことを通じて4大学間の相互的な信頼関係を構築すること、ひいてはそれを東アジア地域内での広範な信頼関係の醸成へとつなげてゆくことを、その発足の当初から指針としている。このため会議も、日本語、韓国朝鮮語、中国語、ベトナム語の4言語で行い、各言語へ同時通訳を付けることを原則としてきた。


今回のハノイ会議に、東京大学からは小宮山宏総長、古田元夫副学長、木畑洋一教養学部長以下、およそ30名の教職員と2名の学生が参加した。上述のような「四大学フォーラム」の趣旨にのっとり、2日間の会期の1日目には、4大学の学長・総長、続いて各大学の代表者が、今回のテーマ設定にもとづいて演説・発表を行う全体会議が開催されたほか、文化的多様性と大学教育の役割に関するパネルセッションと、サステナビリティと大学教育の役割に関するパネルセッションの2つのセッションが開催された。2日目には、「東アジアの未来」をめぐって、4大学の学生間の意見交換を行う学生フォーラムが開催される一方で、4大学の教員が交互に模擬授業を行い、大学教育のあり方に関する認識を深めた。また、2日目の夜にはハノイ・オペラ座において4大学の学生の合唱祭が行われ(東京大学からはコールアカデミーが参加)、オペラ座管弦楽団の伴奏のもと、モーツァルトの『戴冠ミサ』を合同で演奏して、学生レベルでの4大学の連帯関係を強く印象づけた(「四大学フォーラム」における学生合唱祭は今回が3回目となる)。


今回のハノイ会議の成果を挙げるなら、次の2点に要約されるのではないだろうか。第一に、1日目の冒頭、4大学の学長・総長が討議を行う全体会議において「ハノイ宣言」が採択され、各学長・総長による調印式が行われたことである。この「ハノイ宣言」では、東アジア地域における文化的差異の相互的な尊重と文化的共通性の認識という「四大学フォーラム」の趣旨が再確認されるとともに、文化的な差異を除去すべき障害と見なすのでなく、むしろ差異を相互に理解し、相互に補完し合うことによって、東アジアにおける4大学間の共通文化を創造することが目標に掲げられている。また、東アジアを地域的な枠組として出発したこの「四大学フォーラム」が、今後はその協調関係の枠組を拡大し、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカの諸地域との交流も視野に入れて、開かれた正式のネットワークとして展開するよう、その具体的な方策を模索することが約された。


第二は、先述のように、「四大学フォーラム」の公式行事の一環として、4大学の学生同士が意見交換を行う学生フォーラムが開かれたことである。東京大学からは、教養学部後期課程地域文化研究学科と、同総合社会科学科からそれぞれ1名ずつ、計2名の学生が代表として参加した。ここでは英語を媒介言語として4大学の学生が討議を交わしたが、学生フォーラムは今回のハノイ会議においてはじめて実施された試みであり、学生交流を行うことへの学生自身の期待にも対応したものである。東アジアの未来を構想する上での文化的差異の理解の必要性や、経済的な協力関係の可能性など、各国・各学生の視点から問題提起と討論がなされたほか、このような学生交流を今後も維持し、発展させてゆくことについて活発な意見交換が行われた。未決であるがゆえに開かれている、そのような未来に対する学生の真摯な思いが会場を満たし、濃密な時間の流れる意義深い会となった。


なお、「四大学フォーラム」の公式日程には含まれないが、この機会に合わせて、教養学部とベトナム国家大学ハノイ校付属人文社会科学大学とのあいだで、AIKOM協定更新の調印式が行われたこと、また、大学院総合文化研究科地域文化研究専攻の4名の教員と、ベトナム国家大学ハノイ校ベトナム研究・開発科学研究所の教員により、「地域研究─理論・実践・方法」と題する国際シンポジウムが行われたことを申し添えておく。