EALAI東京大学 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ
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「東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ(EALAI)」西中村浩(『駒場2009』)

 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ(EALAI)は、2005年に東京大学が蓄積してきたリベラルアーツ教育を東アジアに向けて発信するとともに、東アジアの諸大学との双方向の教育交流・連携を通じて、ともに高めあいながら、東アジアにおける共通の教養教育の実現を目指す海外教育プログラム(文部科学省「大学教育の国際化推進プログラム(戦略的国際連携支援)」)として発足した。プログラムは2008年度で終了したが、EALAIは2009年4月からは教養学部の正式の付属施設となり、プログラムの成果を継承しつつ、さらに活動を展開している。
 EALAIの活動の基礎となるのは今年11年目を迎えた「東アジア4大学フォーラム(BESETOHA)」である。東京大学は1999年から東アジアの3つの主要大学である北京大学、ソウル大学校、ベトナム国家大学ハノイ校とこのフォーラムを実施しているが、EALAIはその実施部門としての役割を果たし、会議の運営するとともに、フォーラムの枠内でなされる各種の事業を行っている。なかでも、昨年度から実施された遠距離会議システムを利用した、アジア地域共通の問題意識を踏まえた共同講義(E-lecture)は、東アジア地域の多様性を踏まえながら、この地域共通の教養教育を構築するための活動の一環として、重要な意味を持っている。また、東アジアに関わる教育活動を教養学部において展開することもEALAIの任務である。
 今年、EALAIが行った主な活動は、次の通りである。

●東アジア四大学フォーラムの開催
 本年の「東アジア四大学フォーラム」は、第3ラウンドの3回目として、12月4日、5日にソウル大学校で開催された。初日の4日には教養教育に関するワークショップで3つのセッションが開かれ、本学からはそれぞれのセッションに各1名の教員(木村秀雄、西中村浩、清水剛)がパネリストとして参加し、本学の教養教育の特徴、EALAIによる東アジア4大学の連携へ向けての取り組み、そしてE-lectureによる授業連携の試みについて報告した。2日目の早朝には4大学の教養教育を担当する部局の担当者が集まり、前日の議論を踏まえて、4大学共同の講義を行っていく方法や講義の内容について話し合いが行われた。この席でBESETOHAに教養教育に関するSteering committeeを設置することが合意され、4大学の代表者が密接に連絡を取りあいながら、来年度以降の共同講義の実現に向けて大学間の調整を図ることになった。
なお、2010年度の「東アジア四大学フォーラム」はベトナム国家大学ハノイ校で行われる予定である。フォーラムの詳細については、同フォーラムの報告の項を参照されたい。

●教養教育の連携
 BESETOHAの諸大学との教育連携に関しては、昨年度に続けて今年度も教養学部とソウル大学校とベトナム国家大学ハノイ校との間で冬学期にE-lectureによる共同講義が開講された。
ソウル大とのE-lectureは、両大学の正規の授業科目として、1名ずつ教員がリレー講義の形で講義を行うもので、英語で行っている。今年度は、本学ではAIKOMの留学生も含めた後期課程の授業として、ソウル大では教養科目として、「Modern Management and Economics in the Global Society」という講義題目で実施された。教員は、ソウル大からは金ドンス教授、本学からは竹野太三准教授が担当したが、学生との質疑応答も活発で、教員にとっても、学生にとっても、意味のある授業となった。
 ハノイ大に対しては、齋藤希史准教授が日本学科の学生を対象とした講義「日本における漢字・漢文」(使用言語は日本語)を、そして清水剛准教授が経済大学(日本の経済学部に当たる)の学生を対象とした講義「Japanese Economy and Business in Asia」(使用言語は英語)を、冬学期にそれぞれ5回行った。一方、ハノイ大からは経済大学のグエン・ドゥック・タイン博士が後期課程の学生に対して、ベトナム経済の講義を行った。こうした講義はBBSを利用して学生との質疑応答も行っているが、とくにハノイ大の学生の関心が高く、それに答えるために、3月には講義を担当した2名の教員が3月にハノイ大を訪れ、学生たちと討論する予定である。
 こうしたE-lectureによる共同講義は大学による授業期間や授業時間の違い、あるいは技術的な問題など、2年間の経験を通じて、多くの障害を克服しながら行われている。EALAIはE-lectureによる共同講義を東アジアの4大学間の教育連携の実践ととしてだけではなく、今後他の大学との共同講義を行うための試行としても捉えており、今後さらに他の大学との授業連携の仕組みを作り上げているつもりである。
 また、その他の海外の大学の後援会の活動としては、2009年7月に教養教育開発機構との協賛で、ソウル大学校国際大学院の教員・学生を迎えて「日韓合同セミナー2009」を実施した。

●オープンセッション
 昨年から引き続いて行ってきた上記の事業のほかに、今年度は新しい試みとしてEALAIオープンセッションを実施した。これは毎回ごとに統一テーマを設定し、最初に1人ないし複数のスピーカーが報告を行ったあと、フロアの参加者を交えて自由に討論するオープンディスカッション形式のセミナーである。7月15日に行われた第1回目は「漢字の磁場――東アジアの文字原理」と題で行われ、カナダ・マギル大学美術史コミュニケーションスタディーズ学科准教授の中谷一氏、本学の岩月純一准教授と齋藤希史准教授の3名が話題提起し、その後フロアを交えた活発な討論が行われた。
以上のように、今年度は主として「東アジア四大学フォーラム」の3大学と連携して活動をしてきたが、来年度以降は、新たに設置される「教養教育高度化機構」と連携して、さらに他の東アジアの主要大学とも交流を広げ、世界標準であるとともに、東アジアの地域に根ざした教養教育構築に向けて活動を続けていく予定である。
(なお、「東アジア四大学フォーラム」のソウル会議への参加やフォーラムの枠内で行われるE-lectureなどの事業に関しては大和証券の寄付金によって運営されていることを付記しておく。)