EALAI東京大学 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ
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「東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ(EALAI)の活動」 (『駒場2006』) 

 リベラルアーツの理念を東アジアの諸大学と分かち合い、東アジアに共通の教養教育の展開を目指して東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ(EALAI)は、教養学部がその運営を担うプロジェクトとして、2005年10月に発足した。その活動が本格化した2006年は、本プロジェクトの基礎となる東アジア四大学フォーラムを始めとして、リベラルアーツの東アジアへの発信と着信を軸に、次のような活動が展開された。


(1)東アジア四大学フォーラムへの参加
 1999年に始まる東アジア四大学フォーラムは、東アジアの主要な大学間で共通の教養教育を展開することを、ひとつの課題として検討を重ねてきた。2006年の東アジア四大学フォーラムは、11月3-5日にベトナム国家大学創立100周年を記念してハノイで開催され、学長基調講演、「文化の多様性と大学教育の役割」と「大学教育の役割とサステナビリティ」の二つのセッションに加え、四大学の各教員による模擬授業、四大学の学生によるフォーラム「アジアの未来」および合唱祭が行われた。同フォーラムの詳細な報告は、その項を参照されたい。EALAIは、ハノイでのフォーラム開催に合わせて、分科会の設定や模擬授業の企画等の実務を担当し、『教養のためのブックガイド』(小林康夫・山本泰編、東京大学出版会)のベトナム語版をベトナム国家大学から刊行した。2007年の東アジア四大学フォーラムは11月に本学で開催される予定である。


(2)教養教育の東アジアへの発信


左:南京大学教養教育フォーラムの模様 右:南京市雑景 (写真はEALAIによる)

 リベラルアーツの東アジアへの発信として、EALAIは中国での重点展開を目指している。とりわけ南京大学においては、2004年に開設された東京大学リベラルアーツ南京交流センターを通じて、リベラルアーツ関連学科の新設を支援している。2006年3月には東京大学教員数名によるリレー形式の表象文化論の集中講義が行われた。この集中講義は、2007年3月に「東京大学リベラルアーツ・プログラム」の一環として、その第二回目が南京大学の単位認定の正式科目の形で実施され、同時に、本学の派遣教員による南京大学の大学院生向けの講演会も開催される。

 リベラルアーツに関する教育交流は、2006年4月に中国・アモイ大学、5月にベトナム国家大学ハノイ校、11月に香港中文大学で、それぞれ本学教員を派遣する形で実施され、今後の教育交流の発展に向けて、意見交換を行った。


(3)教養教育の東アジアからの着信
 東アジアからの連携校からの受け入れ教員を軸に、前期課程学生の国際的なキャリアの育成等を目指して、テーマ講義を夏・冬各学期に二つずつ開講した。まず夏学期は、本学のアジア研究者の学内ネットワークであるASNETとの共催で、「アジアから考える世界史」(担当教員:羽田正)と、山形国際ドキュメンタリー映画祭の協力を得て「東アジアのドキュメンタリー映画――個人映像から見える社会」(担当教員:刈間文俊)を開講した。冬学期には、科研特定領域研究「東アジアの海域交流と日本伝統文化の形成――寧波を焦点とする学際的創生」との共催で「海の東アジア――海域交流から見た日本」(担当教員:小島毅・齋藤希史)と2005年度に続けて「東アジアの公論形成Ⅱ」(担当教員:三谷博)を開講した。東アジアの連携校からの受け入れ教員に加えて、学内の教員ネットワークや先端的な研究組織さらには学外の諸機関との連携によって、従来にはない新しい視点による講義を開催することができた。多くの熱心な受講生の参加を得て、4つのテーマ講義は盛況であった。各講義の概況及び学生の反響は、講義の進行に合わせてホームページに掲載された。

 また、海外の連携校からゲストを迎えて講演会等の活動を実施した。2006年7月には教養教育開発機構と協賛の形で、ソウル大学校国際大学院の教員・学生を迎えて「日韓合同セミナー」を実施し、11月には南京大学国際関係研究院院長の朱瀛泉(Zhu Yingquan)教授による講演「Economic Globalization and International Relations」、また上記のテーマ講義「海の東アジア――海域交流から見た日本」に関連して、寧波市文物考古研究所所長の林士民氏による講演「宋代明州と日本平泉の友好往来」を開催した。

 今年度の大きな作業として、2006年12月にはアメリカ・スウォスモア大学よりRachel Ann Merz教授を招いて、EALAIの事業に対する中間評価を実施した。これは、東アジアとの交流事業に対して、リベラルアーツ教育に豊かな経験を持つ同大学から助言を得ることで、より効果的な事業の実施を目指すものである。同教授からは肯定的な評価を得るとともに、交流範囲の拡大や授業の実施方法等、多くの具体的な提言をいただいた。次年度以降のプロジェクトの実施のなかで、大いに参考とし、よりいっそう事業の改善を図っていくこととなろう。


Rachel Ann Merz教授による中間評価の模様 (写真はEALAIによる)