2007年11月11日と12日の両日にわたり、東京大学駒場キャンパスにおいて第9回東アジア四大学フォーラム・東京会議が開催された。
各大学の英語名称の最初の2文字をつなげてBESETOHAとも呼ばれるこのフォーラムは、東京大学、北京大学、ソウル大学、ベトナム国家大学ハノイ校の4大学が毎年持ち回りで主催校となり、教養教育を中心として4大学における教育のあり方を討議し、かつ大学間の交流を図ることを目的として開催されているものである。既に各大学を2巡しているこの会議においては、単に教育のあり方を討議するだけでなく、実際に共同講義、茂木授業や学生のサマーキャンプなど様々な試みを行ってきた。さらに、この蓄積の上に立って、昨年のハノイ会議では「ハノイ宣言」が採択され、相互の文化的差異を尊重した上で4大学間の共通文化を創造し、かつそのネットワークを拡大していこうという今後の方向性が示された。
「文化の多様性と環境教育」をテーマとした今回の第9回会議は、他の3大学から各大学の学長を含むおよそ30名の教職員と12名の学生を招待し、本学からは小宮山宏総長をはじめとする本部及び関係する諸部局の教職員、及び小島憲道教養学部長をはじめとする教養学部の教職員など合計50名程度の教職員と10名の学生の参加をえて開催された。3大学の学長を含む一部の方々には前日(11月10日)の東京大学130周年記念式典にご列席いただくなど忙しいスケジュールではあったが、2日間の日程の中では4大学における教育や学生交流のあり方などにつき濃密な討議が行われた。
1日目の午前には4大学の学長による基調講演、及び「ハノイ宣言」に基づき東アジア四大学フォーラムの公式協定の調印式が行われた。午後には「文化の多様性と古典教育」、「サステイナビリティと環境教育」をそれぞれテーマとする2つのパネルセッションが開催された。2日目午前中には遠隔授業をテーマとするワーキングセッションの他、ベトナム国家大学ハノイ校と東京大学の2校による特別学術討論会、及び後述の学生フォーラムに参加する学生及び本学の学生を対象とした学生向け講演「東アジアにおける伝統と環境問題」が開催された。午後には、4大学の学生による学生パネル「環境対策と東アジア:環境問題に東アジアの伝統をどういかしていくか」が開催された。この学生パネルは昨年度試行的に行われ、本年度より本格的な開催となったもので、本学の学生達を中心として学生達自身により企画・運営が行われるものである。
なお、この東アジア4大学フォーラムでは4大学に共有された文化的基盤とそれぞれの文化的な差異を尊重するという視点から、会議は日本語、中国語、韓国朝鮮語、ベトナム語の4言語で行い、各言語に同時通訳をつけることを原則としている。しかし、4言語間の同時通訳というのは実際には大変な労力がかかるため、1日目午後の環境教育に関するセッション、及び2日目の学生向け講演と学生パネルは英語で行われた。英語によるパネルセッションは英語を話すことができる人に参加者を限定してしまい、また英語によって表現しなくてはならないという制約を受けるといった問題があるが、一方で通訳を介さずに4大学からの参加者同士が直接コミュニケーションがとれる点で大きな利点がある。4言語と英語の併用は今後とも続くと思われる。
本会議の成果としては、やはり4大学における教育のあり方、とりわけ教養教育のあり方について真剣に討議が行われ、かついくつかの点については実践に向けて動き出した点がまず挙げられるだろう。実際、どの大学からの参加者も教育のあり方が今後の大学運営にとって最重要の課題であることを認識しており、どのように教育を改善するかという点に強い関心を持ってこの会議に参加していた。ソウル大学とベトナム国家大学ハノイ校の学長が今年度駒場に新しく作られたKALS(駒場アクティブラーニングスタジオ)の見学に来られたことや、また著者が参加していた環境教育のセッションにおいても、時間を大幅に超過してパネリスト同士やパネリストとフロアとの間で熱のこもった議論がなされたことがこのような関心を物語っているだろう。このような状況において、4大学間の教育における連携、とりわけe-learningや遠隔教育が今後の東アジア4大学フォーラムにおいて大きな焦点となることは間違いない。今回の会議におけるワーキングセッション「遠隔授業について」はそのような4大学間の教育における連携が実現に向けて動き出していることを意味している。
もう一つの成果は、学生パネルという場を通じて教職員のみならず学生同士の交流が進展したことである。東アジア4大学フォーラムといっても、教職員だけの集まりではいわば片手落ちであり、やはり学生同士の交流がなければフォーラムの持つ意味が薄れてしまう。そして今回学生パネルというものを自ら企画・運営し、来日後は東京観光を一緒に回り、一緒に食事をして語り合う中で、学生達の交流は(教職員が特に介在しなくても)大きく進展したように感じている。学生達によって運営される学生パネルという形態が今後も引き継がれるなかで学生達自身による交流はますます進展していくものと思う。
なお、今回の東京会議は、実際に参加した教職員のみならず多くの関係する教職員のご努力やアルバイトとしてお手伝いくださった学生の皆さんの活躍によって支えられたといってよい。主催者側の一員として、関係する皆様に心よりお礼を申し上げたいと思う。