東アジア四大学フォーラムという名前は学生の皆さんにはあまり馴染みがないかもしれない。各大学の英語名の最初二文字をとってBESETOHAとも呼ばれるこの会議は、北京大学・ソウル大学・東京大学・ベトナム国家大学ハノイ校の四大学が集まり、大学教育、とりわけ教養教育のあり方を中心に討議するものである。最近では、このフォーラムで話し合われたことに基づいて、インターネットを使った共同講義等の教育に関する新しい試みも進められており、存在感を増しつつある。ここでは、昨年度(2008年度)に行われた北京会議の様子を簡単にご紹介した上で、上で述べた新しい試みについても若干述べさせていただきたい。
この会議は各大学が持ち回りで主催校をつとめることになっており、今回は十回目で北京大学の主催により行われた。といっても、北京オリンピックの思わぬ影響により、北京会議は三つのパートに分かれるという事態になってしまった。すなわち、四大学の総長が集まる会議は11月に北京フォーラムという別の大きなフォーラムと一緒になる形で開催されたが、従来の四大学フォーラムのような教育に関する話し合いをすることは難しかったため、12月に教育に関するワーキングセッションが北京で開催された。また、一昨年より行われている、四大学の学生が集まる学生パネルは北京では開催できなくなってしまい、結局2009年2月に東京で行われることとなった。
実質的な討議の場となった12月のワーキングセッションでは、東京大学から九名、他の三大学から十一名の計二十名が参加し、北京郊外のホテル兼会議場で缶詰になる形で行われた。話題の中心になったのは、各大学の教養教育の取り組み、及び上で触れたインターネットを使った共同講義といったテーマである。各大学ともに教養教育が最近重視されるようになってきていることから、お互いの教養教育のあり方に関して強い関心を持っていることが伺われた。また、インターネットを使った共同講義はこれまで四大学フォーラムの中で話し合われてきたテーマであり、各大学ともに強い関心を持っていた。実際、会議の中にも北京大学でインターネット教育を担当する網絡教育学院の見学が組み込まれていた。
実は、このインターネットを使った共同講義の実施については東京大学が先鞭をつける形になっている。2008年度冬学期にはソウル大学との間で「東アジア経済協力を理解する」を開講し、ソウル大学と東京大学とをリアルタイムでつないで講義・討論・学生発表を行った。なお、東京大学教養学部ではこれまで単発の講義をインターネットを使って行った経験はあったものの、一学期の間継続的に行う講義をこのような形で開催することは初めての試みであった。担当はソウル大学国際大学院の安徳根教授と筆者であったが、我々にとっても当然初めての試みであり、様々な技術的問題や授業の運営の方法など、目を白黒させながら何とかこなしていった。
しかし、東大の学生にとってみれば国際経済法の研究者として若くして著名な安先生と(スクリーン越しではあるが)リアルタイムで直接討論でき、また学生同士でも議論をすることができ、大変刺激的だったものと思われる(ソウル大学の学生にとっても刺激的だった……と期待しているが)。熱心に参加してくれた学生の皆さんと支えてくださった関係者の方々には御礼を申し上げたい。
またベトナム国家大学ハノイ校との間でも斎藤希史准教授が同校の日本語学科の学生に向けて「浦島太郎の説話学」と題する講義を二回にわたって行い、また同校のファン・ホン・トゥン先生から講義を頂いた。こちらの方は先方の日本に関心を持つ学生、および本学のベトナムに関心を持つ学生に大変好評だったと聞いている。
このような状況から東京大学の取り組みは12月の北京の会議でも高く評価されており、今後もこのような形での講義を継続、あるいは拡大していくことになることと思われる。
二月に行われた学生パネルもまた、四大学フォーラムの中で学生の交流を深めるべく企画されたもので、三回目を迎えたことになる。今回は他の三大学から4人ずつ、迎える東京大学からはAIKOM学生(短期留学生)を含む十五人が参加し、かなり大掛かりなイベントとなった。学生パネルということで、大学との折衝のようなことを除き全てが学生に任されたため、学生側がテーマを立て、企画し、進めていった。
今年のテーマは「東アジアの若者と就業問題――金融危機で混迷する時代に生きる」という彼らにとってはリアリティのあるテーマだったためか、学生達は観光よりも講演やNPO訪問の予定をこれでもかと詰め込み、パネルの最後には疲れ果てていた。しかし、月並みなようではあるが、四大学の学生が同じ場所に集まり、一つのテーマについて議論していくというのは彼らが自分の生き方を考える上で大きな意味を持っていたように思われる。ご講演を快くお引き受けいただいた講師の先生方、そしてご支援を頂いた大和証券には謹んで感謝の念を申し上げたい。
最後に学生・教員の皆さんにお願いしたいことが一つある。学生パネルにせよ、あるいはインターネットを使った共同講義にしろ、情熱ある学生の皆さんの参加と多くの教員のサポートがあって可能になるものである。やる気がない人に無理やりお願いする気は全くないが、関心を持たれた学生・教員の皆さんには上のような活動が行われる際にぜひ積極的にご参加・ご協力をいただければと思う。
(東京大学大学院総合文化研究科/国際社会科学専攻/准教授)