EALAI東京大学 東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ
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「海外を開拓せよ」(『東京大学新聞』第3415号、2005年10月11日付)

1.学生争奪戦の始まり
全学挙げてアジアに展開

教育の分野で、グローバル化が進行している。世界中の大学に対して同一基準による評価が活発に行われ、比較が容易になった。インターネットを通して情報も簡単に手に入る。その結果、国境を越えた大学進学も活発になった。

さらに、大学の教育そのものが、海外から日本に、日本から海外へと、国境を越える。WTOでは、貿易自由化交渉の対象に「高等教育の提供」が挙げられており、大学教育が「輸出」「輸入」される時代だ。

東大はこうしたグローバル化の流れに乗り、「攻め」の姿勢を取っている。東大の教育を海外へ展開する取り組みが、次々と打ち出された。

今秋から教養学部で始まった「東アジア・リベラルアーツ・イニシアティブ(EALAI)」はその一つだ。東大が中国・韓国・ベトナムの大学と連携し、教養教育のあり方を模索する。東大で蓄積された教養教育のノウハウを海外の大学に無償で「輸出」する取り組み、でもある。例えば南京大学では、教養教育のカリキュラムを取り入れた新学科の設立に協力している。EALAI執行委員長である借間文俊教授(総合文化研究科)は「従来の、欧米に追いつけ追い越せというスタイルの大学改革だけでなく、これからはアジアに追われる立場を意識すべきだ」と語る。提示した東大の教養教育を、アジア各国の大学に批評してもらうことで、東大自身も改善していくのだという。

講義情報や講義録をウェブ上で公開している「東京大学オープンコースウェア(UTOCW)」も、国境を越えて教育を送り出す。教育がグローバル化する上での「主役」は、こうしたインターネットを使った教育だ。

ただ、その目指すところは大学によって異なる。スタンフォード大学などが提供しているサービスは営利事業だが、UTOCWは無料公開。担当する中原淳講師(大学総合教育研究センター)によると、「ウェブではいわゆる『教育』は行わない。『東大での教育の様子』を垣間見せることで、興味を持った優秀な学生が世界中から集まれば良い」という考えがあるからだ。すぐには効果が表れない、長期的な取り組みだ。

「将来的には、海外に東大の教員が出向いて教育を行う『海外分校』を作りたい」と古田元夫理事・副学長(教育担当)は話す。中国や東南アジア諸国では、経済が発展するにつれ高等教育への関心が高まり、競うように外国の大学を誘致している。早稲田大学がシンガポールに分校を設立するなど、私立大学はすでに進出が進む。

東大も、中国やシンガポールから誘いを受けているという。ただ東大では、まだ具体的な計画はなく、構想の段階でしかない。

刈間教授は「今まで東大の国際交流の取り組みは、多くがバラバラに行われており、その効果は限定的だった」と指摘する。そこで現在、数多い取り組みをそれぞれ連携させることが重要になってきた。例えば中国との交流。様々な大学や研究機関との200件以上の研究や交流の協定を結んでいる。また、中国のエネルギー問題解決に、東大の科学技術を活用しようという動きもある。「今年4月に本部に設置された国際連携本部のもとで、これらの取り組みと、EALAIのような教育分野の取り組みを有機的に連携させていけば、それぞれに相乗効果が望めるのではないか」(刈間教授)。東大の教育は、研究機関という東大の「別の顔」によって、さらにその勢力を広げようとしているのだ。

教育のグローバル化が進む中、東大は海外から優秀な学生資源を獲得できるのか。連載「海外を開拓せよ」では、その最新の取り組みや課題に迫ります。