東アジア四大学フォーラムは、日本、中国、韓国、ベトナムにおける高等教育を牽引していく立場にある東京大学、北京大学、ソウル大学校、ベトナム国家大学ハノイ校が、個別の教育・研究交流を超えて、大学という教育研究システムの相互のリンケージを高め、さらに東アジアにおける共通文化の創造を目指すために組織されたものであり、1999 年以来、年1 回、4 大学持ち回りで開催されている。フォーラムでは、個々の大学が直面するさまざまな経験と問題意識を共有しながら、東アジア地域における大学の組織的な交流基盤を構築するとともに、4 つの大学が連携・協力して、それぞれの国の歴史的・社会的、かつ文化的な相違を踏まえつつ、21 世紀の東アジアにおける大学教育、とりわけ教養教育を構築するための体制や具体的な方法について議論を行ってきた。こうしたフォーラムでの議論の成果は、2006 年のハノイ会議での「ハノイ声明」、2007 年の東京会議での「東アジア四大学フォーラム協定」、そして第3 ラウンドの最終回にあたる昨年のハノイ会議での「2010 年東アジア四大学学長フォーラム・ハノイ会議における共同宣言」に反映されている。
10 月11 日、12 日に教養学部で開催された第4 ラウンドの初回に当たる第13 回会議は、文部科学省の協力を得て、その「学者・専門家交流事業」として開催された。今回の会議で目指されたのは、上記の「ハノイ共同宣言」で謳われた4大学の教育連携、とりわけ教養教育の連携をさらに充実させることであり、そのためにグローバル化が進展し、科学技術が高度化していく21 世紀において、東アジアの総合大学における教育、とりわけ教養教育はいかにあるべきかという問題を中心に報告と議論が行われた。初日の11 日には、田中明彦国際本部長、文部科学省の藤嶋信夫国際統括官の挨拶に続いて、総長セッションが行われ、4 大学の総長・学長がそれぞれの大学の現状と課題について基調報告を行った。それを受けて、午後には「知を総合する力――高度技術とグローバル社会の時代における総合大学の役割」という題で全体シンポジウムが行われ、本学からは大学総合教育研究センター長でもある吉見俊哉副学長と永田敬教養学部副学部長が、本学全体、そして教養学部としての視点から本学における教育について報告を行った。
2 日目の12 日には、個別の領域で4 大学間の教養教育の連携をさらに展開していくために、2 つの教養教育セッションが開かれた。午前中の「古典教材開発」のセッションでは、この地域の共通の古典である漢文の教材を開発するための議論が行われ、本学からは齋藤希史准教授が報告を行った。共通教材の開発についての議論はこれまでの会議でも長年続けられていたが、今回の会議でようやくその実現に一歩近づいたと言えよう。午後には、教養学部英語部会の協力を得て、「英語教育」のセッションが開かれ、大学における英語の教育と、英語での教育(すなわち英語でなされるさまざまな授業)について4 大学で行っている具体的な取り組みやそれぞれの抱えている問題についての報告の後、それを踏まえた議論がなされた。本学からはトム・ガリー准教授が主として駒場におけるさまざまな英語教育の取り組みについて紹介した。
この2 日間の議論を通じて明らかになったことは以下の4 点である。1)21 世紀の人類社会が直面しているさまざまな問題に対応するためには、高度な専門的知識を持っているだけではなく、複雑化した学問分野、高度化した科学技術を相互に関連づけ、文化や社会の全体構造のなかで総合するための、広い視野と判断力を持った人材の育成が急務である。2)グローバル化の進展によって、国際的な協調により持続可能な人類社会を形成しようとする動きが広がっているのが、そのような動きに対応するためには国家の枠を超えられるような人材を育成していかなくてはならない。3)このような人材、すなわち、次世代のリーダーとして国際社会で活躍できるような人材を育成するためには、国際的な協力の下で、既存の国家や専門分野という枠組みを超えるという意味での新たな教養教育を創成しなくてはならない。4)とりわけ2 日目の具体的な教育に関する議論の成果は、4 つの参加大学が具体的な教育実践の場に取り入れて、検証しあうことになるが、このように教育の現場でも国際的な教育協力という形で協力しあってそれぞれの大学の教育の質を高めていくこともフォーラムの重要な任務である。
また、今回の会議でも英語で行われた「英語セッション」を除いて、会議の運営が参加4 大学の4 言語である日本語、中国語、韓国語、そしてベトナム語でなされた。この運営方法は多くの費用と労力がかかるが、東アジア地域の重要性がますます大きくなっている現在、多様な文化的・歴史的背景を持つこの地域の大学間連携・交流のあるべき形を示す実践として意味のあるものであろう。
さらに、2 月20 日、21 日には、4 大学の学生の交流をさらに進めるための「東アジア四大学フォーラム学生パネル」がフォーラムの一環として教養学部で実施された。学生の視点から見た大学教育のあり方をテーマとしたこのパネルには、北京大学から3 名、ソウル大学校、ベトナム国家大学ハノイ校からそれぞれ4 名、そして教養学部から9 名の学生が参加した。パネルは議論のテーマや日程の設定など、本学の学生を中心とした4 大学の学生自身によって運営されたが、学生たちは大学の側から見た大学教育のあり方について本学の山本泰教授の講演を聞き、またソニー本社を訪問し、企業から見た大学教育について話を聞き、それを踏まえて2 日にわたって活発な議論を行った。
なお、上述のように今回のフォーラムは文部科学省の「学者・専門家交流事業」として実施されたが、そのほかにフォーラムと学生パネルの準備とその開催にあたっては、昨年度に引き続き大和証券から多大なご支援をいただいた。また、ソニー訪問に際しては本社グローバル人材開発部門の社員の方々からさまざまなご配慮をいただいた。ここに深く感謝申し上げたい。
西中村浩