「東アジア四大学フォーラム」は、1999年以来、東京大学、北京大学、ソウル大学校、ベトナム国家大学ハノイ校が毎年交替で主催し、各大学の総長が一堂に会して共通の論題に関するセッションを持つほか、参加各大学間の交流と意見交換の場として、また特に教養教育に関する共同プロジェクトの推進について検討するための場として機能してきた。北京、ソウル、東京、ハノイ四都市の頭文字をとったBESETOHAは本フォーラムの略称としてすでに定着しているといっていいだろう。
2010年はその第3ラウンドの最終年にあたり、ベトナム国家大学ハノイ校の主催で第12回ハノイ会議が10月7日から9日にかけて開催された。おりしもハノイ市は建都1000年記念祭の開催期間に当たり、全市が祝賀ムードに包まれる中での開催となった。
10月7日午前には、レタイントン・キャンパスのグイニューコントゥム大講堂にて教養教育に関するシンポジウムが開催され、総合文化研究科・教養学部からは山影進研究科長、石井洋二郎副研究科長をはじめとする教職員17名が参加した。今回のテーマは「東アジアの大学における古典教育」である。これまでの会議でも、共通教養教育の議題の一環として、各大学における古典(とりわけ東洋古典)教育の現状と未来については関心が寄せられていたが、今回これが一つの統一テーマとしてとりあげられたわけである。各大学からはそれぞれ古典教育についての現状と課題が報告され、本研究科からは高橋英海准教授が「日本における西洋古典学の歩みと教養教育における意義」、齋藤希史准教授が「日本における東アジアの古典 ――共生のための古典教育をめざして――」と題する報告を行った。それぞれ今後の協力のための貴重な情報を提供する報告であったが、とりわけ印象的であったのは、各国共通の文化的遺産として容易に想起される東洋古典だけではなく、西洋古典、ひいては人文社会系の各研究領域にとっての(英語、ドイツ語、フランス語など近代語で書かれた研究史上の)「古典」をどのように教育し、継承していくかも俎上にとりあげられたことである。今回、スケジュールの関係で半日の時間しかなく、各大学からの報告をもちかえることしかできなかったことは残念であるが、今後この成果をどのように展開していくかが課題となるであろう。
10月8日午後、同じくグイニューコントゥム大講堂にて総長セッション「グローバルな変動の文脈における都市の持続的発展」が開催され、本学からは濱田純一総長、田中明彦理事・副学長をはじめとする参加者が出席した。濱田総長は、「持続可能な都市空間の形成に向けて」と題し、都市発展の持続可能性は、これまで論じられてきたような単純な人口の分散化や都市機能の郊外化では対応しきれないものであり、今後の模索の方向として、自然環境や自然災害に関する持続可能性(Ecology)、特定の地域だけが極度に繁栄する不均衡をならす経済的持続可能性(Economy)、公共的資源へのアクセスを妨げるさまざまな疎外現象を乗り越えるための社会的持続可能性(Equity=社会的公平性)、という「3つのE」の各側面において、それぞれ、環境問題や災害リスクを克服し(Ecology)、空間文化の多様性を育成し(Economy)、セグリゲーション(居住地域の限定)や物理的社会的バリアーを打破する(Equity)ことによって、従来の人間居住空間(都市空間)とは異なる新しい人間居住空間(都市農村一体空間)を構築することが必要だと論じた。セッションの閉幕にあたり、これまでの成果を踏まえ、さらなる交流関係の深化を目ざす「2010年東アジア四大学学長フォーラム・ハノイ会議における共同宣言」が発表され、四総長が調印した。
これに先行し、7日午後から9日にかけて、総合シンポジウム(テーマは総長セッションと共通)が開催され、本学からは堀洋一新領域創成科学研究科教授が「未来の電気自動車を可能にするための電動モーター、スーパーキャパシター、無線電力伝送」、大方潤一郎工学系研究科教授が「東京の成長、衰退、そして持続可能性」、田中純総合文化研究科教授が「(ポスト)モダン都市における都市表象の政治、美学及び詩学の分析」、木村忠正同准教授が「国際的視野から見た日本社会における情報格差」と題する報告を行った。シンポジウムはハノイ市建都1000年祝賀行事の一環としても位置付けられたため、ベトナムからの報告者及び聴衆が最も多く、報告内容もハノイ市を対象とするものが多かったが、その中で最先端技術、情報化社会、そしてヨーロッパ・日本など他地域の歴史といった、異なる側面から都市発展にともなう諸問題に迫った本学教員の報告はいずれも参加者の強い関心を引いた。
フォーラムと並行して、10月7日午前には四大学の学生による共同討論の場である「学生パネル」も開かれた。本年のテーマは共通テーマと連動した「都市環境に対する学生の観念と態度」で、各大学2名の参加者が発表と討論を行った。「学生パネル」は昨年のソウル会議で途絶えたものが今回復活したものであり、学生間の交流強化のよい機会となった。
今回の会議で、東アジア四大学フォーラムは引き続き第4ラウンドに入ることで合意に達し、次回会議は東京大学が主催することになった。本フォーラムの成果は、本学とソウル大学校およびベトナム国家大学ハノイ校との二校間のインターネットを通じた遠隔講義(e-lecture)の進展にも現れており、さらに教員の相互派遣や共同講義を視野に入れた協力関係の構築も議題にのぼっている。次回会議の成功と四校間の交流の深化に向け、努力したい。
なお、今回の開催に当たっては、昨年度に引き続き大和証券からのご助力を得ることができた。また、研究科内外の教職員の方々からも、多大なご協力をいただいた。厚く感謝の意を申し上げたい。