2009年12月4日と5日の両日にわたり、ソウル大学において第11回東アジア四大学フォーラム・ソウル会議が開催された。各大学の英語名称の最初の2文字をつなげてBESETOHAとも呼ばれるこの会議は、東京大学、北京大学、ソウル大学、ベトナム国家大学ハノイ校の4大学が交代で主催校となり、教養教育を中心として4大学における教育のあり方を討議し、かつ大学間の交流を図ることを目的としている。
今回はまず初日の12月4日にソウル大学で教養教育を主に担当する基礎教育院の主催で教養教育に関するワークショップが開かれ、そして2日目の5日には同大の対外協力本部の主催で、「アジアの持続可能な高齢化社会に向けて」をテーマとして、4大学の学長による基調講演、およびパネルセッションが開催された。本学からは濱田純一総長、小島憲道・田中明彦両副学長、山影進教養学部長他の計17名の教職員が参加した。
初日の教養教育に関するワークショップではまる1日をかけて、各大学における教養教育の取り組みの現状、そして本会議の枠組みの中での大学間の協力の現状と課題といったテーマで報告と討議が行われた。本学に関しては、教養教育の特徴について木村秀雄副学部長が、本学における東アジアの各大学との協力について西中村浩教授が、現在ソウル大学およびベトナム国家大学ハノイ校との間で進められている遠隔講義について清水が報告した。他にも、ソウル大学におけるアメリカ・カナダの大学との協力による遠隔講義の報告や、北京大学における新しい教育スタイルに関する報告、あるいはベトナム国家大学ハノイ校における教養教育の現状や野心的な協力体制の提案など、かなり具体的な報告や提案がなされ、また真剣な討議が行われた。
2日目の「アジアの持続可能な高齢化社会に向けて」というセッションでは、まず各大学の学長からの基調講演として、アジアにおける共通の課題としての高齢化やそれに対する各大学の対応、そして今後の協力の可能性についてそれぞれの立場からの講演がなされた。濱田総長からは高齢化社会に対して本学では「高齢社会総合研究機構」のような学問領域を超えた研究教育体制が作られ、かつそのような研究教育体制が社会における実践と結びついているが、一方でこのような問題に対応するためには本会議のメンバーである4大学を中心として他大学との協力が必要であるという趣旨の講演があった。また、午後のパネルセッションでは、本学大学院人文社会系研究科の武川正吾教授より、高齢化に対する日本の制度的な対応とその問題点、とりわけ社会保障制度の重要性についての報告があった。高齢化社会というテーマが日本・韓国のみならず中国・ベトナムでも問題になりつつある状況からか聴衆からはさまざまな質問が出ており、関心の高さを感じさせた。
特に教養学部との関係において今回の会議で感じたことは、教養教育に関する4大学間の協力が既に準備の段階から実践の段階に入った、ということである。2年前から見てきた印象では、2年前でもまだ準備の段階であり、昨年ようやく実践が動き出した、という印象だったが、今年度は各大学とも実践ということを意識して参加していた。今年の教養教育ワークショップには全ての大学が(国際連携を担当するセクションだけではなく)実際に教育を担当するセクションからも代表を送ってきたことはその1つの表れといえる。また実際、2日目のセッションの前に朝食をとりながら各大学の代表が今後の具体的な協力について話し合い、結果として教養教育に関する4大学間の協力体制を具体的に動かすための委員会の設置に至ったことは(小さなことかもしれないが)実践の段階に入ったことを示すものと言えるだろう。なお、教養教育に関する協力の実践ということでは本学は既にソウル大学との間でのインターネットを使った遠隔講義(E-lecture)が2回目に入り、またベトナム国家大学ハノイ校との間でも昨年の試行に引き続き本格的な講義を行い、本学が先行している状況だが、他の大学間、あるいは4大学全体での協力も進展する兆しが見えており、来年度には4大学間の協力関係はますます深まっていくものと予想される。これは非常に大きな成果といってよいだろう。
もっとも、本会議にはいくつかの問題があったことも否めない。まず、この会議は各国の文化的伝統を尊重しながら東アジアにおける共通基盤を認識し、新しい文化を創生していくという目的から、会議は日本語、中国語、韓国語、ベトナム語の4言語で行い、各言語に同時通訳をつけることを原則としている。しかし、今回は総長の基調講演は各国語で行われ、また通訳も用意されていたものの、初日の教養教育ワークショップの多くの発表および2日目午後のパネルセッションのすべての発表が英語で行われ、あたかも英語が使用言語であるかのような印象を受けた。また、昨年、一昨年と行われた学生によるパネルセッションも結局開催されず、学生交流の機会が失われてしまったことも残念である。このような欠点は来年のハノイ会議では修正されることを望みたい。
最後になってしまったが、昨年の引き続き今回のソウルでの会議の参加に関しては大和証券から多大なご支援をいただいた。ここに深く感謝申し上げたい。
清水 剛