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「第10回東アジア四大学フォーラム・北京会議」西中村浩(『駒場2008』)

「東アジア四大学フォーラム」は、東京大学、ソウル大学校、北京大学、ベトナム国家大学ハノイ校の4大学が、毎年、交互に持ち回りで主催校となり、大学教育、とりわけ教養教育のあり方に関して討議を行い、かつ4大学間の交流を図ることを目的として開催されているものである。北京・ソウル・東京・ハノイの英語名称の最初の2文字をとってBESETOHAとも呼ばれるこの会議は、東アジアという内部に文化的・歴史的な差異を持ちながらも、ある種の文化的共通性をも分かち持っている4つの地域の大学が、その文化的・歴史的な差異を相互に理解・尊重しながら、共通の基盤を認識し合って、新しい東アジアの共通文化の創成を目指すことを発足の当初から指針としている。そのために会議の運営は、日本語、中国語、韓国語、ベトナム語の4言語でなされ、各言語へ同時通訳をつけることを原則としてきた。

2008年度の3ラウンド目の第2回目にあたる第10回会議は、北京大学が主催校となって行われた。ただ、北京大学の都合もあり、例年と異なって11月6日、12月23日、そして2月6、7日の3回に分けて開催された。

11月6日には「東アジアにおける大学の教育交流」をテーマとする学長フォーラムが北京大学の英傑交流中心で開催され、本学からは小宮山宏総長、田中明彦国際連携本部長のほか、駒場から4人の教員が参加した。開会式の後、4大学の学長による基調講演が行われたが、小宮山総長は、環境問題やグローバリズムといった人類全体が直面している緊急の課題に世界の大学が協力して対応するためには、さまざまな教育研究の領域ですでに存在している大学間のネットワークを統合する仕組み、すなわちNetwork of Networksを作り出す必要があり、東アジア四大学フォーラムがこのNetwork of Networksの重要な一環をなすNetworkとなるには4大学がさらに連携を強めていく必要があることについて論じた。

12月23日には、各大学から教養教育と遠隔教育に関わる教員が参加する、教養教育に関するワーキング・セッションが北京で開催された。本学からは小島憲道学部長以下、教養学部の教職員9名が参加した。午前中はホテルの会議場で、各大学からの挨拶の後、E-lectureや共通教科書の作成などを通して、それぞれの大学における教養教育をめぐる状況や、4大学が共同で教養教育を行う方法について議論が行われた。本学に関しては、まず小島学部長が東京大学における教養教育を紹介した後、兵頭俊夫教授が文系の学生向けの理系教科書に関する取り組みを紹介し、清水剛准教授が今年度の冬学期に教養学部がソウル大学校と共同で行ったE-lectureについて報告した。その後、各大学からの報告の内容についての質疑がなされ、さらにE-lectureによる共同授業のやり方に関して活発な意見交換がなされた。午後には、北京大学内の網絡教育学院(School of Distant Learning)に会場が移され、北京大学による中国国内での遠隔教育に関する活動の紹介が行われた。

このフォーラムではいままで参加4大学の教育、とりわけ教養教育のあり方についてそれぞれの大学の特徴を踏まえた上で、これからの東アジアの大学における教育・教養教育を共同で開発していく方向について真剣な討議が続けられてきたが、今回の2回の会議の収穫としては、E-lectureによる授業の共同実施や共通教科書の共同開発に関する議論など、これまでの成果を4大学の具体的な教育の現場で実践していく方法について本格的な検討が始まったことが挙げられる。とりわけE-lectureについては、すでにこの冬学期に教養学部とソウル大学との間で東アジアの経済に関する共同授業が行われ、教養学部とベトナム国家大学ハノイ校の間では地域研究と日本文化にかんする共同授業が試行的に行われているが、今回の北京会議では、各大学で若干の温度差はあったというものの、E-lectureによる共同授業実施の取り組みが、将来の4大学間の共同の授業実施という方向への最初の重要な試みであることが確認されたことの意義は大きい。4大学はそれぞれの地域で、国際標準(global standard)にふさわしいだけではなく、東アジア地域のさまざまな地域の多様性を踏まえた東アジアの regional standard となるにふさわしい教養教育を構築していかなければならないが、その際に東アジア四大学フォーラムでの4大学の連携は大きな意味を持つだろうと思われる。

フォーラムの最後のセッションである学生パネルは、2月6、7日に本学駒場キャンパスで開催された。このパネルは4大学の交流を教職員だけではなく、学生にも広げるために、昨年度の東京会議から本格的にはじめられたものである。今年度は北京・ソウル・ハノイから各4名の学生を招待し、本学教養学科の学生12名とAIKOMの留学生4名が参加し、「東アジアの若者と就業問題――金融危機で混迷する社会に生きる」というテーマで2日にわたって議論がなされた。このパネルは本学の学生が中心となって学生自身で企画・運営されるもので、他のセッションと異なり英語で行われるが、今回の議論のテーマの設定や議論の活発さから、現在の経済状況がそれぞれの地域差はありながらも、東アジアの学生たちにとって共通する大きな関心事となっていることが感じられた。今後も学生たちの交流をさらに促進していくために、4大学の学生が共通に持っているさまざまな問題について議論するさまざまな機会を提供していくことが必要であろう。

なお、今回の北京での2回の会議への参加に関しては大和証券から寄付を受けたことを付記しておく。また、学生パネルを東京で開催するに当たっては、大和証券から全面的なご協力をいただき、また教養学部の多くの教職員の協力を得ることができた。ここに深く感謝する次第である。